紫陽花と小埼

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紫陽花と小埼

 紫陽花は、キレイだ。  素直に、そう思う。  一緒に見るヤツが、女子だったらと…  願わずには、いられない。  「セ・ン・パイ。紫陽花、凄くキレイだね!」  小埼が、言うように赤や青、紫にピンクや珍しいところでは、真っ白な紫陽花も、咲いている。  明け方まで降っていた雨が止んだ雨上がりだからこそ余計に、キレイに見えるんだろうか?  アマチュアのカメラマンやバエ目当てで、スマホを構える女性客達に、家族連れの姿も…チラホラ。  さすがに男同士って言うのは、俺らぐらいか…  「センパイと紫陽花が、見れてめちゃくちゃ嬉しい !!」  デカイ声で、騒ぐな恥ずかしい。  取り敢えず俺は、当たり障りもない感じに普通の返事をかえしてやってみた。  「そうだな…」  …がっ、聞いちゃいない。  スマホを構え色々な方向や向きを気にしながら、撮り始めている。  「あぁ…逆光になる! この花キレイなのに…残念」  そこにあったのは、薄紫色の紫陽花。  色味としては、青に近い印象だ。  残念そうに撮った写真を眺める小埼が、妙に気になる。  だいたい。男でも、花の写真をバエ目的で撮るものなのか?  全く気にしたことないけど。  元カノ中でも、スイーツや風景の写真をSNS等に上げては、居たけど…  友達の中にも、受け狙いで上げてるヤツもいるけど…  花の撮り方で、一喜一憂するとか…  まぁ…人の趣味は、それぞれだしなぁ…  フト視線を、落とすと日陰でもなく逆光でもない位置に、先程よりも色味の薄い紫陽花を見つけた。  俺が、指で小埼の肩を小突くとそのまま指で、その紫陽花を指差す。  パーッと表情が、明るくなった。  「ありがとう。センパイ!」  楽しそうに近付き、その紫陽花を撮り続ける後輩小埼。  「そんなに写真撮って、好きなん? 花とか…」  小埼は、ビクッと振り返る。  「いや…その。好きって言うか……デートだから。少しはしゃいじゃってます」  エヘヘと、小埼は、はにかんだ。  俺は、否定してんのに、  デートって、言い切られた。  紫陽花を見るのに付き合うとは、言ったが…  デートとは、了承してねぇーぞ?  「えっーっ…カッコいい系のセンパイに可愛い系のオレが、一緒に歩いてるなんって、デートじゃん!」  どこから来る自信だ?  その間違えてません的な自信は、どこから?  「センパイって、凄く人気あるんだ…オレが、皆の前でセンパイが、好きってアピっても、皆は冗談だって決めつけてくるけど、何度も言うね。オレは、本気だからね」  小埼が、逆光に立った。 光を浴びた感じにフワリと、 発光した風に見える紫陽花が、眩しい。 いつだって真剣で、いつでも素直。 思った事を、直ぐにでも口にするみたいに、その優しそうな表情は普段の顔立ちとは違って、圧巻だ。  小埼って存在が、男らしく見えてしまうのも不思議だ。  「…センパイ。お腹空いた。キッチンカーに何か食べに行こうよ!」  あんまりジッと、見すぎたか?  慌てて視線を変える俺に対して小埼は、またも俺の腕に抱き付いてくる。  「あのなぁ…離れろって…」  ツンとして聞いちゃいないように、そのままキッチンカーのもとへと急ぎ足で向かう。  まぁ…何って言うか、この所。  ずっと、こんな感じどから…  慣れたと言ったら、誤解をうみそうだけど。  小埼は、こう言うヤツと割り切ってしまうと、そうでもない。  いや…  俺自身…かなり。  おかしい事、言ってねぇ?  内心。  ヤバいと、我に返るが…  隣では、小埼がキッチンカーの前に張り出されているメニュー表を目にして、ドレにするかと迷っているみたいだ。  「ツナマヨとハムチーズ。どっちも迷う」  「ここの…大きさが、小さめだから両方頼めば?…今日だけ奢ってやるから。好きなの頼め…」  「…………」  ポケッとした顔が戻らないのか、それとも本来の顔がそう言う顔なのか……  「面白い顔してるけど、大丈夫か?」 と、思わず笑ってしまった。    「いや…あの。奢って貰えるとは思ってなくて…その…ありがとうございます!」  素直なヤツなんだけどなぁ…  慕ってくれるのは、正直に言えば、悪い気はしない。  この過度な抱き付行為さえなければ…  …誤解を生じさせる言い方をしたけど、それだけ小埼は、周りから無自覚に可愛い後輩、または話しやすい先輩とされている。  出来上がったクレープを、トレイにのせもう片方を、手に持ち大きく口を開け頬張る小埼が、いい顔して食べるものだから。  一緒に頼んだお茶を、吹き出し掛けた。  「笑うとこ?」  納得いかないのか、口をへの字に曲げたが、気を取り直す様に再び食べ始める。  「ゴメン。旨そうに食べるから…」  「へぇ~~っ…で、センパイは、何を頼んだの?」  「サラダ…エビとかアボカドとか入ってるやつ」  「だけ?」  「これ、サラダって名前だけ聞くとヘルシーな感じだけど、キャベツの千切りやらキュウリやら。けっこうな野菜が、入ってんだ」  「美味しいんですか?」  「旨いよ。トルティーヤみたいな感じで、俺ガキの頃から必ずコレ食ってるし」  「あっ…トルティーヤ…」  まぁ…野菜で腹持ちを、良くするためとも言うのか?  「じゃ…今度、来たときに試してみようかな?」  「お前…野菜好きだっけ?」  「少し苦手だけど、食べられなくはないし…」  こんな風に、話しも出来るんだけどなぁ…  ナゼ。小埼に好かれたのか未だに謎だ。  初めは、罰ゲーか…何かかって、噂になったぐらいだったし。  周りも、いきなりのラブラブ発言と行動にフリーズしたぐらいだ。  それもまぁ…数ヶ月 (二ヶ月) もしたら。 次第に周りが、慣れだしたけど…  憧れの好きなのか、  ホントに恋愛対象としての好きなのか、  今の段階じゃ分からない。  俺の恋愛対象は、女子だし…  何度も断っているんだけど…  …それしか、言いようがないだろ?  「…セ・ン・パイ !!」  「ん?」  ゴミ捨てから戻って来た小埼は、ニコニコと近付いてくる。  「また紫陽花、見に行こう!」  俺の腕を掴み、またその腕に抱き付いてくる。  本人は、素知らぬ顔でさっきまで撮ったいた写真を確かめたり加工したりとしている。  そんな俺らの後ろの方で、女性客達が、随分前からヒソヒソしているのは、知っていたけど…  ギューーウッ!  「何で…ここぞとばかりに、抱き付いてくるんだ?」  「…牽制しないと…」悪そうな顔してる…  …にしても、牽制?  何気に後ろを振り返ると、さっきまでいた女性客達が、急いそと去っていく途中だった。  「オレが、ゴミを捨てに行ったとき、あの人達、センパイを見ながらカッコいいとか、キャー、キャー言いながら。ジロジロ見てた…」  「はぁ?」  プンと怒っているが、何とも言えない表情で、猫が毛を逆立てる様に…シャーッと、威嚇しているようにも見えた。  いや…もう。  猫耳の幻影には、慣れた…  いや…慣れちゃダメだろう?  「歩きにくいから離れろ!」  「じゃ…センパイは、側に居てくれるの?」  「えっ?」  目が、点になった。  今まで、好きって言葉だけだったから…  ビックリし過ぎた。  「オレは、センパイの近くに出来るだけ居たいし。見ててもらいたいかな…その…なるべく近くで…」  そんな風に間近で、俺を見上げるものだから。 自然と上目遣いになっているせいか…  ドキッとした。  「オレ…センパイを好きな気持ち、誰にも負けない自信があるから !!」  なんか…凄いセリフを、人前で叫ばれた。  いや…  物凄い宣言を、され……た?                 続く
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