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002
「ねぇ、どうなっているのよ!」
純白のドレスの裾を強く握りしめた。
シワは跡になることも気にならないほど、私はスマホの画面を凝視する。
何通も送ったメールも、何度鳴らした電話も全てスルーされていた。
何で今日なの? 何で?
だって今日は……。
「あの……新郎様は……」
申し訳なさそうに近づいてきたスタッフの一人が声を上げた。
支度に時間のかかる私よりも彼は一時間遅れてこの会場に入る予定だった。
付き合って三年。同棲して一年。そして今日は彼氏という立場から、夫となる予定だったのに。
なんで? なんで電話に出ないの?
もしかして事故に遭ってしまったとか。でもどっちにしても、最悪の状況であることには変わりなかった。
今日のこの式の支払いのお金も彼が持ってきてくれるはずだったし。それに主役は二人揃わないと始めることは出来ない。
「なんで電話に出ないのよ!」
泣いていいのか、怒っていいのか。それすらも分からない。
しかしその後、自宅を見に行ってくれた真実は私にとっては諦められないものだった。
一言で言ってしまえば結婚詐欺。
それでも四年も一緒にいたのに。彼には私に対する愛情は一ミリもなかったのかな。
家の家具も式のお金も全部持って、彼は綺麗さっぱり消えてしまっていた。
「ホント、馬鹿みたい……」
慰めてくれる友だちたちさえ振り切り、私はドレスのまま外に飛び出した。
私の気持ちを汲み取ったように、急に空から大粒の雨粒が降り注ぐ。
「なんで今日だったの? お金ならあげたのに。こんなに惨めな捨て方なんて酷すぎる……」
私が何をしたというの?
彼の色に染まりたくて、何でもずっと頑張ってきたのに。その結果がコレって終わっているでしょう。
結婚したら家庭に入って欲しいって言った言葉はなんだったの。
今日で私はお金も仕事も恋人も全部なくしてしまった。
「惨めだ……」
この雨が涙を隠してくれることだけが、せめてもの救いだった。
街中を足早に行き交う人たちは、私を見ては怪訝そうな表情を浮かべても誰も声をかけてはこない。
私だけがこの世界で浮いてしまってるみたい。異物、ね。これでは。
はははっと笑ったところで、いろんな人の悲鳴が耳に入ってきた。
振り返ると、そこには暴走するトラック。
全てがスローモーションのようにゆっくりとなっていたが、私にはもう逃げる気力すら残ってはいなかった。
最低だった人生なんて、こっちから願い下げよ!
劈くような音と、冷たくなったアスファルトに体温が奪われていく感じ。
そして誰かの叫び声が転生前の最後の記憶だった。
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