1-bスポットライト

1/3
前へ
/98ページ
次へ

1-bスポットライト

 子役の条件に満たすように、僕は幼い頃から食べるものも作法もすべて、キツいくらい母と一緒にいる。     ノックのあとに部屋の入り口に立つ母が、嬉しそうな声で話している。 「裕太、やよいさんの娘さん昼の番組に出るわよ」 「やよいさんの娘さんじゃなくて、あきよ」  今の生活を作ってくれた人だから、母親兼マネージャーだから。だけど、反抗期はわかりきってることでも、溜め息が出てしまう。 「ありがとう、お母さん」  口角を上げて目尻を下げて演じている笑顔を見せる。母は満足になり部屋を出ていく。足音が遠ざかっていくのを確認して、お仕事用2台目の明世のスマホを取り出す。 『水野くんにしか頼めないのよ。頼めるかしら?』  明世の母親、やよいさんから頼まれたからだ。娘は暴走しやすいと、それは昔からの性格だからとは言わずに引き受けた。普通なら、マネージャーである春奈さんから頼まれるのだろうけど、姉妹で確執があるらしく面倒なので、そこんとこは聞いてない。 ****  壁掛けのテレビをつけチャンネル番号を押すと、ドラマの制服を着た明世が、緊張ぎみな顔で映っている。  どんなこと言われても平常心で。  僕とのラインで、りって送っただろ?了解の意味の【り】なのにさ。 『母は母であたしはあたしなんで!!』  アップになる明世の長い黒髪をカールさせた前髪が映る。たれ目で、見た目がおっとりさんに見えるから、危険なんだよ。 「なに・・やってんだよ」  僕は急いで青い鳥を押して、トレンド画面を見る。ほら、ギャップ萌え狙ったって変わらないよ・・・  #やよいの娘  #鈴鹿(すすか)やよい  #久住正明(まさあき)  #ひるだよ  #番組番宣  #クローバー48  #久住明世  明世の両親が入り、下の方にやっと明世の名前がトレンド入りする。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加