私の知らない「きみ」の味

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 こうして私の目の前にやって来たオムライスは、最初に愛奈やテレビが見せてくれたものと形こそ違えど立派なものだった。 「これが卵じゃないなんて信じられないね」  愛奈は自分のスマホで角度を変えながら大量の写真を撮っている。きっとSNSに載せるためだろうけど、こんな田舎から発信される投稿を誰が見るかなんてたかが知れている。でも、自分との思い出を何らかの形で残そうとしてくれるその気持ちだけは、やっぱり嬉しい。 「冷める前に食べよ」 「あ、そうだね。そうしよ。いただきまーす」  こうして私たちは同時にオムライスを口に運んだ。甘みとか濃厚さとか、正直本物を食べたことない私にはよくわからなかった。でも、なぜだか最高に美味しかった。思わず見開いた目で愛奈の方を見ると、やけに複雑な顔をしてスプーンを動かす手を止めている。 「……なんか違うね」 「え?」 「いや、美味しくないわけじゃないんだよ? でも、なんかちょっと違う」 「……そりゃ、卵じゃないんだから本家に劣る部分はあるんでしょうけど」 「うーん……何が違うんだろう。瑞希はどう思う?」  愛奈のこの発言に私は思わず吹き出してしまった。この天然すぎる発言も、その裏にある私を思う気持ちの優しさも、私が愛奈と友達でいる理由の一つだ。愛奈は私が吹き出した理由が分からないようできょとんとしている。  何が食べられるかなんて関係ない。結局私は、愛奈と何かを食べている瞬間が好きなのだ。
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