私の知らない「きみ」の味

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 愛奈が何を言っているのか、私にはさっきから全然わからなかった。私は自分たちが座っているアイス屋さんの向かいにある定食屋のテレビ画面に目を向ける。このお店は何故かいつもドアが全開だから、この席からだとちょうどテレビの画面が見えるし、音もなんとなく聞こえてくる。 「鳥インフルエンザの影響で卵の品薄状態が続いています。その影響を受け、現在食品業界では『代替卵』の使用が本格化しています」  アナウンサーが淡々と語る中、映像にはその声の薄暗さとは正反対と言ってもいいくらい鮮やかな黄色とさっき愛奈が見せてくれたものとよく似たオムライスが映されていた。どうやらあのオムライスはその「代替卵」とやらを使って作られたらしい。 「……愛奈が言ってるのって、もしかしてこれ?」 「そう! 世間は代替卵ですよ、瑞希さん。これを使えば、瑞希もオムライスが食べれるってわけ!」  愛奈はまるで自分が代替卵を発明したかのように意気揚々と語る。映像に映っていたオムライスは、私が知っている鶏卵で作られた本来のオムライスと大差なかった。これが卵じゃないと言われてもにわかに信じられない。もしかしたら全国の卵愛好家なら違いが一目瞭然なのかもしれないが、生まれて18年間、卵というものを口にしたことがない私にとって、その差を見分けることは至難の業だった。
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