こじれるくらいなら

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後ろからかなり大きい足音がした。 「ひな先輩っ!ちょっといいですか」 私は後ろを振り向く。こいつは…最近入部してきて即座にひなに恋した人物だ。 「はいはーい?」 私の隣りにいた、ひなこと関口雛はのんきに答えた。 くるくるの目に巻毛の髪。 誰がどう見ても「かわいい」としか言いようがない。 「ごめん、渚。ちょっと待ってて!」 私は小さく頷くとひな達から少し離れた場所で待った。 声は聞こえなかったが後輩くんが何を言っているのかは大体想像がついた。 ひなは笑顔で手をふると頭を下げている。 「フッ……」 私の口からは笑いが漏れた。 我ながら覚えているのはおかしいと思うが、ひなに告白した人はこれでちょうど20人目だ。 そしてどうやら今回も断ったよう。 後輩がしょんぼりしていると、ひなは手を頭に載せた。優しく撫でて何かを言っている。 毎回おなじみの慰め方だ。 きっと「ごめんね、でも勇気を出して告白してくれてありがとう!」と優しく笑いかけているんだろう。 少し経つと、ひなはしょんぼりとした後輩をその場において私の方へ駆け寄ってきた。 「あぁ……これで20人目だよ」 うんざりした声はひなのもの。さっきの優しい声とはきっとぜんぜん違う。 ひなはその声のまま舌を踊らせた。 「にしても、後輩くんたちちょっとは頭使えないのかなぁ…。さっきの子も名前すらわからなかったし。もう少し仲良くする努力してから告白してほしいよね」 ひなは本質まで知ってほしいんだろう。 私と話すときは自然と毒舌だ。こんなところを見ても好きだ、と思えるのが本当の好きなんじゃないだろうか。 「ねぇ…渚もそう思わない?絶対失敗してこじれるって分かってるのに告白するなんてさ」 急に話しかけられて少し驚いたがすぐに言葉を返す。 「そうだね。こじれるくらいなら、そのまま後輩先輩の関係のままがいいと思う」 ひなは私の言葉に何度もうなずいた。 「その考えが私の後輩には足りてないのかなぁ…渚!脳みそわけてくれぇっ!!」 ひなが私の頭を掻きむしってくる。私は笑いながら「やめてよっw」と叫んだ。 ひなは満面の笑みで笑うと私と一緒に歩きだした。 こじれるくらいなら告白しないほうがいいよね。 このままこの関係が続くなら。 「渚?」 私はいつの間にか止めていた足を雛の方へ動かすと 「あ、ごめんごめん、考え事してた!」 と軽く返した。 ひなは私に笑いかけるとはやくはやくと急かす。 こじれるくらいなら告白しないほうがいい。 ひなの私だけに見せてくれる笑顔がなくなるくらいなら。 でももし、告白してOKしてくれたら? ひなも私のことが好きだったら? 私はないない、とひなが思っているよりもちっぽけな脳みそを振った。 この関係がこじれるくらいなら私はこのままでいい。 だからどうかこの気持ちがばれませんように、渚は願った。 完
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