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 とりあえず家の近くのカフェに場所を移しオッサンと向き合って座る。「ここに来るのはクリスマス以来?」と彼女しか知り得ない情報が彼の口から出てきたため、思わずメニュー表を落としそうになった。  どうしたの?と微笑むオッサンの姿にハッとする。小首を傾げ、テーブルに肘をついて両手の指を引っ付ける仕草はまさしく彼女のそれだ。  茉莉。本当に、君なのか? 「実はあの時、神様が現れたの」  オッサンが滔々と語りだす。 「神様は私に、君はまもなく死ぬって言った。そして選択肢をくれたの」 「選択肢?」 「一つは魂だけの存在となって輪廻転生の輪に加わること。人は死んでも、新しい命として何度でも生まれ変わるんだって」 「あぁ。なんか聞いたことあるよ」 「だけど転生を待つ魂は常に渋滞してて、新しい肉体を授かるまですごく時間がかかっちゃうの。そこで神様は生前の行いが善かった私にだけ、もう一つの選択肢をくれたんだ」 「ど、どんな?」 「もうすぐ死ぬ別の肉体に私の魂を移し替えて、死後すぐに転生すること。  ……このおじさん、高田与四郎さんっていうらしいんだけど、私が死んだのと同時刻に借金苦で自殺しようとしてたおじさんなんだって。神様としてもせっかく創った肉体が自分から壊れていくのは悲しいから、今回だけ特別だって!」  脳は茉莉の言葉の意味を理解したが、心はまだ若干理解を拒んでいる。よりによってなんでこんな小汚いオッサンに茉莉の魂が……。 「姿が変わっても、恋人になってくれるんだよね? 玄斗は私の見た目じゃなくて私自身を愛してるんだもんね?」  僕の苦悩を察してか、茉莉が牽制するように言った。瞳孔がギンギンに開いている。 「も、勿論だよ」 「良かった! 改めて、これからもよろしくね!」  茉莉が笑った瞬間ガタガタの歯並びが剥き出しになる。  い、いや、大丈夫。こんな見た目でも中身は茉莉なんだ。僕は茉莉ならどんな見た目だって愛せる。嘘じゃないぞ。  まだオッサンの見た目には慣れないが、僕はきっと本心からそう思った。
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