プロローグ

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この大国、リの国の宮廷に泳ぐ美姫たち、そしてそのお付きの女官、リンドバルクの周りに侍る女はたくさん存在する。 が、そんな「美を競い合う女ども」と比べても引けを取らないほどの美しさ。 ただ、「女丈夫」の野性味は感じられた。盗賊という職業柄だろうか、その顔には若干の粗野な性質が滲み出ている。 その女の名は、ミランという。 リの国、一番の腕前と噂に高い女盗賊。 ミランに盗めないものは、地に立ち動くことのない建物のみとの評判は、リの国だけではなく、周辺国でも耳にする。 しかし、それほど有名にもかかわらず、誰もその素性を知ってはいない。 どこに住む誰なのか、ミラン本人に関する情報は皆無と言って等しいのだ。 (なるほどこれは……その秘密のベールを、押さえつけてでも剥ぎ取りたいという気持ちになる) ミランが、ゆらりと身体を揺らした。 たったそれだけだ。 それだけで、リンドバルクの後ろに控える二人の用心棒が、ごくと喉を鳴らし、そして剣のつかに手を添える。 それを耳にし、目にしたリンドバルクは、ミランを軽く見ていた自分の考えを改めざるを得なかった。 ふ、と苦笑した。 (……ベールを剥ぎ取るのは難しいようだ) そして。 まだ一度も。 ミランは国主リンドバルクに、頭を下げていない。 (ふてぶてしいものだな……だがまあ、そんなことはどうでも良い) 「ミラン、お前を呼んだのは他でもない。お前に盗んでもらいたいものがある」
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