9人が本棚に入れています
本棚に追加
この大国、リの国の宮廷に泳ぐ美姫たち、そしてそのお付きの女官、リンドバルクの周りに侍る女はたくさん存在する。
が、そんな「美を競い合う女ども」と比べても引けを取らないほどの美しさ。
ただ、「女丈夫」の野性味は感じられた。盗賊という職業柄だろうか、その顔には若干の粗野な性質が滲み出ている。
その女の名は、ミランという。
リの国、一番の腕前と噂に高い女盗賊。
ミランに盗めないものは、地に立ち動くことのない建物のみとの評判は、リの国だけではなく、周辺国でも耳にする。
しかし、それほど有名にもかかわらず、誰もその素性を知ってはいない。
どこに住む誰なのか、ミラン本人に関する情報は皆無と言って等しいのだ。
(なるほどこれは……その秘密のベールを、押さえつけてでも剥ぎ取りたいという気持ちになる)
ミランが、ゆらりと身体を揺らした。
たったそれだけだ。
それだけで、リンドバルクの後ろに控える二人の用心棒が、ごくと喉を鳴らし、そして剣のつかに手を添える。
それを耳にし、目にしたリンドバルクは、ミランを軽く見ていた自分の考えを改めざるを得なかった。
ふ、と苦笑した。
(……ベールを剥ぎ取るのは難しいようだ)
そして。
まだ一度も。
ミランは国主リンドバルクに、頭を下げていない。
(ふてぶてしいものだな……だがまあ、そんなことはどうでも良い)
「ミラン、お前を呼んだのは他でもない。お前に盗んでもらいたいものがある」
最初のコメントを投稿しよう!