9人が本棚に入れています
本棚に追加
リンドバルクからの信頼も厚い、宰相のメナスがどこぞより連れてきた人物だ。もちろん、その資質を疑ってはいないが、このように華奢な女を前にして、若干の不安を拭えずにいた。
(どちらかと言えば、妹ティアの侍女にしてもいいぐらいだ)
化粧の施されていない女の顔は久しぶりに見たぞ、と心で苦笑する。
が。
(いや、侍女には勿体ないか。化粧や衣服で着飾らせれば、この宮廷の一二を争えるかも知れんな)
そう考えを巡らせていると、ミランが少しだけ顔を上げた。
「どれくらいの猶予をいただける?」
想像より、低い声だった。けれどその声には艶があり、やはり女だ、とリンドバルクは思った。
「どれくらい必要だ?」
ミランは躊躇なく答えた。
「悪名名高い盗賊団の巣に潜入するのだからな、準備は入念に行いたい。一週間は必要だ」
「良かろう、準備に必要なものはこのメナスに言え。何でも揃えてやる」
リンドバルクは、横で控えているメナスを見ずに言った。
「部屋を用意してやれ」
メナスは、やはりリンドバルクの方を見ずに、かしこまりました、と言って頭を下げる。
メナスはそのまま、ミランへと近づいていき、手を伸ばして促した。その手を制し、それから顔を戻して問う。
「報酬は?」
ミランが力強い声で訊いた。その声に、メナスは表情を崩さずに、行き場を失った手を戻す。
その様子を見ながら、リンドバルクが唇の端を上げた。
「どれだけでも出す」
「それだけ価値があるものなのか?」
「俺にとっては、な」
「わかった」
ミランは踵を返し、背中を見せた。今いる大広間のドアへと向かい、歩き出す。歩を進めるたび腰に差した大刀が、カチャカチャと小さな音を立てた。
メナスと並んで歩く後ろ姿を見て、リンドバルクは呟く。
「……本当にお前のような女が、俺の至宝を奪い返せるのか?」
口元を歪めた。
「見ものだな」
リンドバルクは立ち上がり、先ほどまで臨戦態勢だった二人の用心棒の間をすり抜けると、出口へとゆっくりと進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!