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「あなたが使役しているという竜は、どうしたのですか?」
ミランと肩を並べて王宮の長い廊下を歩きながら、メナスが切り出した。
隠しているわけではないが、連れてこなかった竜の話題に触れられて、少し苛立ちを覚えた。
「置いてきた」
「それは随分な慢心ですね。今どきの盗賊は危機感という言葉を知らないのですか?」
「そっちこそな」
ミランがわざと、大刀の柄に手を掛けた。その様子を横目で見ていたメナスはくすりと笑う。
「うちには腕の立つ者が大勢居ますからね」
「そのようだ」
ミランは先ほどの国主リンドバルクとのやり取りの場面を思い出した。
国主の斜め後ろに控えていた二人の用心棒。一人は剣と棍棒を、そしてもう一人は剣と鞭を腰に下げていた。
隙のない冷静な視線に、相当の手練れである感を持った。
ガタイのいい同じような体躯やその揃いの顔から、双子だということが簡単に見て取れる。双子ならではの意思疎通もできるだろう。
知っていた。
「確かにあの双子は有名人だな」
猛者にして双子の用心棒、ルイとライの名は、リの国の周辺国にまで届く。
(一対一だとしても私では敵わないだろう……なるほど帯刀したままでいいという理由がそれか)
「猶予は一週間。それ以上かかってしまうと、リンドバルク様の大切なものが競売にかけられる可能性が高くなります。競売にかけられて人の手に渡ってしまうと、探し出すのに相当な労力を要しますから」
「なるべく急ごう」
「もしあなたの竜を連れてくるなら、庭の南側にあるバラ園に留め置くことを許可します」
「わかった」
「……盗まれたものが何かは訊かないのですか?」
メナスがちらと視線を寄越す。
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