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ルォレンが揚げパンに手を伸ばす。すると、横からにゅっと出てきた手に、手首を掴まれてしまい、その拍子に揚げパンがころんと床に落ちた。 「上司の飯を横取りする気か」 見上げると、手首を掴んでいるのは、何かとルォレンに因縁をつけてくる大男のダンだった。ダンは幹部以外のその他大勢の中の一人ではあったが、もちろんルォレンよりは上の位置にいるのに、ルォレンを何かと目の敵にしてくる男だった。 ルォレンの上司がみなからの信頼も厚い人気者のリュカであることも、気に入らない要因の一つらしい。 「俺が貰ったんだから、俺のもんだろ?」 落ちた揚げパンを拾おうと手を伸ばす。それをダンが先にすかさず拾って、ニヤと笑いながら言った。 「埃まみれだぞ。こんなのもう食えるかよ」 リュカはその二人の様子をじっと静観している。 「返せ」 立ち上がり、手を伸ばして、ダンの腕に飛びついた。もちろんダンの方が身体も一回りも二回りもがっしりと大きく、ルォレンはぐるんと振り回されて、地面に叩き落とされた。 「くそっっ‼︎」 顔半分が食堂の油まみれの床にベタリとついた。突っ伏したまま顔を上げると、落ちたパンを握り潰すダンの姿が目に入った。鼻の奥がツンと痛み、ダンの姿が涙で歪んだ。 「ルォレーン、ルォレーンっっ」 この時、ルォレンの脳裏には、ミランの笑った顔が浮かんでいた。 自分の名前を懸命に呼びながら、手に丸パンを持って駆けてくる。そんなミランの腕や足が細いのは、盗ってきた食料を、全部自分に差し出しているからだ。 ぶわっと愛しさが湧き上がってきて、全身を覆い尽くす。ルォレンはそんな時いつも、ミランを想う愛しさで、身体を震わせた。鳥肌が立つほどに、ミランを愛しているのだ。 強くならなければ。ミランを守るために。 「くそおおお、うおおおおっっっ」 ルォレンは立ち上がると、狂ったようにダンへと掴みかかった。 「バカか、こいつっっ‼︎」 一瞬、怯んだダンの手から、揚げパンが落ちていく。それをスローモーションのように見ながら、ルォレンはダンに投げ飛ばされて落ちた。 意識を戻した時には、すでに自室のベッドの上だった。 それから。 ルォレンは狂ったように自分の身体と剣の腕を、鍛錬したのだった。
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