孝の場合

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孝の場合

「では次のメールいってみよう。えっと『明日は大好きなあの人の誕生日です』。おっ。コイバナですね~」 かけっぱなしのラジオから、馴染みのパーソナリティの声が耳に飛び込んできた。 期末試験明けの夜。ベッドの上でうつらうつらしていた脳みそが、一気に目を覚ます。 だって、オレも明日が誕生日。 明日が誕生日の男なんて山ほどいるのに、オレだったりして、と思ってしまうあさましさ。 オレは、ベッドの上で耳を澄ました。 「『プレゼントなんて、恥ずかしくてとても渡せないけど、明日、わが高校はなんと球技大会。手作りクッキー持参して、みんなでわいわい食べてるときに、友達に話題ふってもらって、さりげなくおめでとうって伝える作戦です』だって。乙女の作戦だねえ」 ドキドキのテンポがアップする。 オレの学校も球技大会じゃん。 パーソナリティは、深夜番組ならではのハイテンションで続ける。 「『あの人なら、きっと、ちょっと話題を振ったら、あ、オレ今日誕生日って言うに決まってる。その時がチャンスです』。と言うことは、あの人ってのは、けっこうお調子者なのかな。なんにせよ、健闘を祈る」 だれだ。このメールを送ったのは? いつの間にかベッドの上で正座している。 「ラジオネーム『クッキーちゃん』。あ、追伸だって。『あの人のイニシャルはTだよ』。そっか。じゃあ、クッキーちゃんの願いがTくんに届くようリクエストいってみよう」 イニシャルはT、イニシャルはT……。 オレ、Tじゃん! 孝じゃん!
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