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「…さん?」
「…クレア・クレメンスさん?」
「はっ…はいっ!」
手入れの行き届いた庭の、木陰に設けられたベンチに座り、夢現の世界から現実に戻された私の前には黒いブーケで顔を隠す女性が立っていた。
「すみません…私、またぼーっとしてて…」
「良いのよ、私も主人が亡くなって十年も経つのに未だにこんな格好ですもの」
そう言って、喪服に身を包んだ女性は軽やかに笑った。
あの人が居なくなって三ヶ月が経っていたけど愛想笑いしか出てこない、この人みたいに笑える日が来るのだろうか…。
「しっかりしなさい!貴女が言ったんですよ、バイロンはまだ死んでいないって」
ナボコフの撃った魔導砲から放たれた光、私はあの魔力を知っていた、何日かは放心状態だったけど、あの魔力が私の知っている転移の魔法の揺らぎに似ていたことを思い出した時、私はこのペンべルトン辺境伯の屋敷に転がり込んだのだった。
「あの子は私の主人が見つけた宝物なんですから、そう簡単に死んだりしませんよ」
ミセス・イザベラ・ペンべルトンとその亡き夫アドバイン・ペンベルトンは単身スヴァールに逃げ込んだバイロンの後見人だった、転移の魔法で消えたバイロンは必ず此処に姿を現すはず…。
「クレアさん、貴女は黒い服なんか着ちゃ駄目よ…」
辺境伯婦人とは思えない程茶目っ気たっぷりにクルリとターンを決め、舞台女優のように大袈裟なポーズを取る。
「最近じゃワタシ、マダム・ノワールなんて呼ばれてるのよ」
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