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スヴァールの森からほど近く帝国との国境にあるペンベルトン領、東の果ての国楼蘭で生まれるが、滅びの国を後にして帝国を横断した時、この地で最後の護衛が息を引き取った。
当時、ココを治めていたアドバイン・ペンべルトン辺境伯が居なければ、この森の中でバイロンの命は尽きていただろう。
正体不明の男に、父として、母として接してくれたペンベルトン夫妻には返しきれない恩義を感じていた、バイロンはこの国を離れる最後に訪れようと思っていた。
一度、庭に転移してきた時は「屋敷で働く者達の仕事を奪うんじゃない!」とアドバイン様に叱られた事を思い出しながら門を抜けた。
「母上!?」
正門には屋敷で働く者達が揃っていた、目立つように街道を歩いてきた甲斐があったということだ、しかし、母と慕っていたミセス・ペンべルトンの様子がおかしい。
執事に支えられながらやっとの事で立っている、確かに高齢ではあったがまだまだ元気でいると思っていたのに。
「よく戻って来ましたね」
笑顔の後でゴホゴホと咳き込み、車椅子に腰掛ける母の膝にすがる。
「大丈夫ですか、母上?」
「ええ…ええ、大丈夫ですとも…貴方が帰ってきたのだから」
そう言って微笑む母は、記憶の中の母と比べて随分と小さく感じた。
「ちょっと散歩しましょう?」
執事に替わり車椅子を押してくれと言う事だろうか、促されるまま中庭へと歩みを進める。
「母上、何か出来る事はありませんか?」
「…じゃあひとつだけ、お願いを聞いて頂戴」
「ええ、私に出来ることなら何でも致します」
「ありがとう…手を…」
中庭に着くと立ち上がろうとする母の手を取った、随分と小さく…あれ?意外と力強いな?
「言質は取ったわよ…」
ベールで顔を隠した母はニヤリと微笑んだ…。
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