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「私の生まれ故郷は滅びの国楼蘭だと言うことは以前話しましたね…私の国が魔族に襲われたのは私が原因なのです」
「バイロン様…」
ペンベルトン辺境伯に拾われた時も同じ説明をした、母上も聞いていたはずだ、だから余計にクレアの存在が嬉しかったのだろう。
「私は五歳の時に神託を受け、龍の御子としての力を授かりました、しかし同時に人として普通の生活が出来なくなってしまった…」
「私には子をなす事が出来ません、だからクレアには普通に結婚して、普通に子を生み育て普通の女性の幸せを手に入れて欲しいと…そう思っているのです」
魔族に翻弄された数奇な半生と、更に数奇な道へと進もうとしているバイロンにとっては「普通の」人生は守るべきものであった。
「バイロン様、その話は本当ですか?」
「ああ、本当だ…だから私ではなく他の人…」
「その前です!」
「その前?」
「け…結婚するとしたら、わ、わ、わ…」
「あぁそうだ…キミしか居ない、もしもの話だがな…」
「ふ、普通の幸せって何ですか?!」
「え?」
「わ、私は二九歳になります…貴族の娘としては行き遅れもいいとこです、こんな私に今更普通の幸せなんか来ません!」
「それは…」
ただでさえ宮廷魔道士の序列に名を連ね、おまけに神聖力の加護持ちだ、武門の貴族なら是が非でも娶りたいだろうが、果たしてそれは普通の幸せなのだろうか…。
バイロンの僅かな動揺を感じ取った訳では無いが、クレアは思いのたけをぶつけた。
「仮にバイロン様と一緒になったら普通の幸せは来ないという事ですが…普通じゃない幸せが手に入るということですか?」
初めて魔物と戦った時より、魔道士団の昇級試験を受けようとした時より、クレアは今まで生きてきた中で最大限の勇気を振り絞った。
「でしたら…でしたら、普通じゃない幸せを私に下さい!」
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