魔導師バイロンとその他いくつかの話

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『ヘンド遺跡』  ハムルヘンドの町の北はずれにある古代遺跡、魔法で運んだのだろう、この地域ではあまり見ない類いの巨石が原っぱに置いてあるだけの用途不明の遺跡だった。  ある時、一人の僧侶がこの遺跡で修行を行なった「用途は不明だが、きっと何かのご利益があるに違いない」という信仰心の欠片もない打算的な理由ではあったが、数ヶ月この地に留まった夏の終わりの朝、不思議な光景を目にした。 「石が光っている…?」  いくつか並んだ巨石の隙間から朝日が差し込み、ひとつの巨石がその光を反射させ輝いていた。  次の日、その光景は見られなかった、朝日と巨石の隙間が僅かにズレて光っていた石まで光が届かなかったのだ。 「(こよみ)か…」  巨大な岩を運ぶ事の出来る人々が、この様な大掛かりな装置で暦を知る必要があったのだろうか?  おそらくは、魔法を使える種族が導き手の様な立場にあり魔法が使えない者たちに種まきや収穫の時期を教えるための物であろう。  先人の知恵と云うものは時に我々の想像を遥かに越える高い次元にある。   スヴァール王国図書館所蔵   『古代遺跡の謎』ヨーメル・カモーネ著  宮廷魔導師バイロン・エラルドンは、わざわざ借りてきた金縁で丁装された立派な表紙の本の中身がゴミ同然だったと知り、ため息を漏らした。 「暇だ…」  その魔力量は歴代最高と称され、最年少でスヴァール王国宮廷魔導師となった彼にとっては担っている魔法結界の維持ですら児戯に等しく、一日の大半を読書に費やしていた。
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