濡れないアリス

プロローグ

｢雨ですね。｣

再度その声が聞こえた時、チカはついに｢はい｣と
返事をしていた。寝言に返事をしてしまった時の
様な名伏し難い思いに身を焼きながら隣を見ると、そこにはサラリーマン風の男がぽつんと立っていた。

グレーのスーツに、つばの付いた帽子。顔には
陰が差し、表情が全く見えない。ただ、身長が
高くよく通る低い声をしているせいで俳優染みても居る。

｢雨の日になると、自殺率や犯罪率が高まると
いう統計データがあります。｣

首を動かし、｢ご存じですか｣と問う男にチカは
薄気味悪さを募らせた。
どうして、こんな事聞くんだろう。寄りによって見ず知らずのあたしに。

＿数分後、遅延気味の電車が緩慢な動きでホームに到着しチカは男に断りも入れずそそくさと足を動かし乗り込む。空いている座席が無かった為、
仕方無く手すりに捕まると男と正面から対峙する
はめになった。