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「あんたさ、生きてて楽しいの?」
美和が、顔をあげると、姉はコテと格闘しながら鼻で笑う。
「30過ぎて、結婚もしていない。彼氏もいない。仕事帰り遊んでくれる友達もいないんじゃ、ないないづくしで、逆に同情するわ」
美和は洗濯物をぎゅっとだきしめ、立ち上がる。
「無視かよ」
姉が言うのを横目に、洗面所を出る。
なにも持っていないのは、わかっている。
けれど、まったくなにもないわけじゃない。
仕事帰りまっすぐ帰ってくるのは、見たい笑顔があるからだ。
「美和ちゃん」
健太は居間の入り口で顔を出し、美和が来るのを待っていた。
「あったよ。かいじゅうの服」
美和が言うと、満面の笑みで駆け寄ってくる。
「やったぁ」
大丈夫。
子供にとって、親はなによりも一番だ。
どんなことをされても、きっと、一番。
それに敵うことは、一生ない。
「おねぇちゃん」
美和は、支度を終え居間に戻ってきた姉に声をかける。
「は?」
面倒くさそうに言い、スマホをいじっている。
「私、楽しいよ、すごく」
姉は聞いているのか、聞いていないのかスマホから目を離さずにいる。
キッチンでの仕事を終えた母は、洗濯物をたたむ手をとめ、顔をあげる。
「毎日、違う変化があって、毎日少しづつ成長してるから」
姉は、鼻で笑うだけで返事をしなかった。
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