終末の魔女、再び

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終末の魔女、再び

 ここは貴族達が住む街、リッシュ。島国キャド―のどこかに存在する、立派な屋敷が建ち並ぶ、きらびやかな街。貴族達は民と関わるのを極端に嫌うため、普通の民は遠くから見ることすら許されない。  そのため、この街は山奥の閉ざされた地に存在した。  食糧は奴隷が外れの畑で作り、上質な生地は仕立て屋が取り寄せる。  貴族の街が山奥にある理由はもうひとつ。鉱物が大量に採れるからだ。そう、この山は鉱山。石油や石炭などの燃料も、貴族達が愛する宝石もたくさん採れる。  補えるものは奴隷を使えばいいし、足りないものもやはり奴隷を使い、取りに行かせればいい。奴隷は貴族の元だけでなく、貴族御用達の店にも最低ふたりはいるのだから。  リッシュの中でも特に立派な屋敷を持つグレイス家に、新しい命が誕生した。産まれてまだ3日しか経っていない赤ん坊を、グレイス家の人々と、老魔術師か囲み、緊張の面持ちで赤ん坊を見つめている。 「大魔術師様、お願いします」 「うむ」  老魔術師は、懐から透明の魔法石を取り出し、赤ん坊に近づく。  本来魔法石というのは、石と同じ属性の魔法を使う際、サポートしてくれる代物である。例えば、赤い魔法石なら炎の魔法を、青い魔法石なら水の魔法を使う際、通常より少ない魔力で使ったり、魔法の威力を強めたりしてくれる。  透明の魔法石は、触れた者の魔力がどの程度あるのか知るための特殊な魔法石で、数は少ない。故に、所持している者のほとんどは、ベテラン魔術師だ。 「あうぅ、きゃっきゃっ」  無垢な赤ん坊の目に、魔法石はおもちゃに見えたのか、短い手を伸ばし、ペチペチと叩く。魔法石はまばゆい光を放ち、誰もが目を閉じた。  瞬間、何かが割れる音と、大魔術師の悲鳴が聞こえた。 「うおおおっ!?」 「大魔術師!?」 「子供は無事なのか!?」  赤ん坊と大魔術師のことが心配になるが、眩しくて目を開けられない。  魔力測定をして、これほどまでにまばゆい光が放たれたことはあっただろうか? 過去に魔力測定に立ち会ったことがある者達は、疑問を抱えながら光が収まるのを待った。  ようやく光が収まると、彼らは目を開けた。そこには、信じがたい光景が広がっていた。大魔術師がへたり込み、うめき声を上げているのだ。 「大魔術師、どうなされたのですか?」  当主が駆け寄ると、大魔術師には無数の破片が刺さり、血が流れている。血に耐性のない者達は悲鳴を上げながら我先にと部屋を出ていく。  部屋に残ったのは、赤ん坊の父親である当主と、母親である夫人のふたりのみ。 「私の赤ちゃんは!?」  夫人が駆け寄ると、赤ん坊は無邪気に笑っていた。 「その赤子に近づいてはならん!」  先程までうめき声を上げていた大魔術師は、鋭い声で叫ぶ。 「何故我が子を抱きしめてはいけないのですか?」 「その赤子には、とんでもない魔力が秘められている」  大魔術師の言葉に、夫婦は顔を見合わせる。魔力はあればあるほどいい。それだけ優秀な子供が産まれたという証だ。魔法石が割れたのには驚いたが、グレイス家に素晴らしい才能を持った子供が産まれたと喜ぶべきだろう。  だが、大魔術師は先程の叫び声からして、喜ばしいものと思っていないようだ。
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