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終末の魔女
気が遠くなるほど遠い昔。裕福な家庭に、ひとりの女の子が生まれました。女の子は膨大な魔力と、人の心を読む力を持っていました。
元々心優しい女の子でしたが、人の心が読めるので、誰がどんな嘘をついているのか分かってしまいます。
お母さんの友達がよく遊びに来るのは、上等な紅茶や焼き菓子を食べられるから。
歳の近い子達が寄ってくるのは、女の子の家が裕福だから、恩恵を受けるために仲良くするよう、親に言われているから。
これだけでも女の子にとってはつらいのに、もっとひどいことを考えている人がたくさんいました。
優しいと思っていたお医者さんは、わざと効き目の弱い薬を出してお金を巻き上げたり、商人は不良品と知りながら、わざと高い値段で売ったりするのです。
他人を傷つけて嘲笑う人も、たくさん見てきました。
女の子はやがて、美しい女性に成長しました。そんな彼女に言い寄ってくるのは、美貌と財産につられた男だけ。誰も女性のことを知り、愛そうとはしませんでした。
なので、女性は縁談をすべて断りました。
そんな女性にお母さんは、「結婚してみたら、案外いい人だったりするものよ」と言います。ですが、お母さんは心の中では、一族の繁栄のためにも早く結婚してほしいと思ったのです。
「誰も彼も、欲に塗れて醜い。こんなに醜い生き物は、死んだほうがいい」
女性は生まれ持った膨大な魔力で、世界を滅ぼそうと決めました。女性は膨大な魔力を使い、ある街を燃やし、ある村を沈め、ある集落を岩で覆い、世界に混沌をもたらしました。
着実に世界を壊していく彼女を、人々は【終末の魔女】と呼び、恐れていました。
毎日毎日、街が、国が、終末の魔女によって滅ぼされていきます。ですが、人間も黙ってやられてばかりではいませんでした。
人々は魔力を封じる不思議なチカラを持ったセロの木を利用することにしました。『生き残った人間達はセロの森に逃げて怯えている』という嘘の情報を流し、魔女をセロの森に誘い込みました。
セロの森に入った魔女は、徐々に魔力を奪われ、弱っていきました。魔女が弱っていくのを木陰に隠れて見守っていた人間達は、一斉に襲いかかり、セロの木で出来た杭を、魔女の心臓に打ち込みました。
「愚かなお前達は同じことを繰り返す。お前達に醜い欲があるかぎり、私のような者が再び生まれ落ちるだろう」
魔女はそう言い残し、死んでいきました。
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