忘れもの

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--------- 2ヶ月ほど前の早春。 些細なことで喧嘩をした僕と美優。 原因は僕のついた小さなウソ。 ウソをウソで塗り固め、取り繕ううちに引き返せなくなった僕は、ウソがバレた後も謝ることができず、開き直って不貞腐れてしまっていた。 中々“ゴメン”の一言が言えず不貞腐れたままの僕に呆れたのだろう。1ヶ月ほど前のある春の日。新年度が始まると同時に、美優は僕が仕事に行っている間に部屋を出て行ってしまっていた。 残業を終え部屋に帰ってきた時、朝僕が仕事に行くまではあった美優の持ち込んだ私物は、美優専用のバスタオルやスリッパ、調理器具に至るまで全て持ち出されてしまっていた。 元々僕が一人で住んでいた1LDKのアパート。 二人で住んでいた時は狭く感じることもあったけど、一人残されてからは、“こんなに広かったっけ?”と、実際の空間以上に心の中に大きな“隙間”を感じていた。 “この部屋に美優が残して行ったものはもう何もない” 今の今までそう思っていたけど、彼女が買った柚子胡椒の瓶だけは、冷蔵庫の奥にそのまま残されていたってことなのか。 ただ単に美優も柚子胡椒の瓶の存在に気づかなかっただけかもしれないし、気づいていたとしても、冷蔵庫の中のものまで持って帰ることまではしなかっただけかもしれない。 美優は特に残された柚子胡椒の小瓶に意味を持たせるつもりは無かったんだとは思うけど、気づけば僕は、柚子胡椒を置いて行ったことに何かメッセージが隠されているんじゃないかと、疑い始めてしまっていた。 そしてその日は、仕事を定時で切り上げて帰宅し、部屋の中に他にも美優の“忘れもの”がないか、何かメッセージが隠されているんじゃないかと、探してしまっていた。
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