忘れもの

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そういえば僕には、セミダブルベッドの右半分、狭く限られた範囲で器用に寝返りを打つクセが身についていたはずだ。 でもそれなのに、今朝はうっかり大きく寝返りを打った。 そしてその時、無意識で振り上げた右手を大きくベッドの左半分に打ちつけてしまった。 僕はその右手に伝わる衝撃に驚き、慌てて飛び起きた。 ---ゴメ…、だ、大丈夫? 寝ぼけながら半身を起こし、左側の方を向きながらそう言いかけて、もうその質問をする必要が無いことを思い出す。 そして僕は、胸をチクチク刺すようなやりきれない痛みを感じながら、大きなため息と共にその言葉をそっと飲み込んだ。 2年近く同棲していた美優(みゆ)がこの部屋を出て行って、もうすぐひと月が経つ。 美優がいた時なら、寝返りを打って美優にぶつかれば、 『痛いなあ、もうっ』 と、怒ったふりをしながら、笑って僕の腕を優しく押し返していただろう。 その時の記憶と共に脳裏に浮かんできた美優の笑顔。 僕はその美優の笑顔を頭を振って追い出すと、もう一度ため息を吐き、布団を頭から被り直した。 ---最近はようやく美優のこと、忘れかけてたのにな…。
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