アンナちゃんのお願い

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玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。宅配便かと思ってドアを開けたら、 小さな女の子が立ってた。 「オジちゃんあのね、お願いがあるの!」 困惑の表情になった理由は、唐突にお願いと言われたのが50%、「まだ24歳なんだけどな~」が50%。 そう言えばこの女の子、見た事がある。 アパートのエレベーターを待っていたら、お母さんと一緒に出て来たんだ。 働いているお店が朝早いので、ニワトリがコケコッコー!と鳴く午前5時には家を出てゴミを捨てる。時々この子のお母さんもゴミを捨てに来て、何度か挨拶を交わした。僕の部屋が3階で、少し前から5階に住んでいるんだっけ。 「どうしたの?」と聞くと、女の子はモジモジし始めた。 「あのね、ワタシに料理を教えて欲しいの。ご飯を作りたいから」 お母さんには洋食店で料理人として働いている事を話した。だからと言って、まだ幼稚園にも行ってなさそうな小さい子が、この僕に弟子入りしたいとは! 流石に一人で火を使うのは危ないので、ここは一肌脱ぐとしよう。 「お名前は?」 「アンナです」 「そっか。アンナちゃんはお母さんにご飯を作ってあげたいのかな?」 きっと誕生日に料理のサプライズをしたいのだろうと思った。 だが、女の子は首を振る。 「ううん、お母さんじゃなくて、ユイちゃん。お腹が空いてるみたい」 「お母さんはいないの?」 お父さんは?と聞こうとしたが、止めておいた。 「お母さんはお仕事で夜にならないと帰って来ないの。ユイちゃん、元気が無くてジッとしてるの」 火曜の午後に部屋にいるのは僕ぐらいなものだ。きっとアンナちゃんは片っ端からドアを開けようとしたものの、他の部屋は閉まっていたのだろう。 妹想いの優しいお姉ちゃんじゃないか。それならパパッと作ってあげよう。僕はアンナちゃんを部屋に入れるとテーブルに案内し、「ちょっと待っててね♪」とジュースを出してから冷蔵庫のドアを開けた。 「はい、お待たせ~」 こう言う時には卵料理が一番だ。出来たてのフワッフワのオムライスと、レンジでチンした唐揚げをお皿に盛って、アンナちゃんに手渡した。 「わあっ、オジちゃんありがとう♪」 大喜びでトコトコと玄関へ行き、バイバ~イと振り返って手を振ってから、アンナちゃんは自分の階に戻っていった。
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