紫色のたまご

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 もっとも、過酷さが限度を超えるとトマトも美味しく育たないように、人の魂もストレスを与えすぎるとストレスに染まってしまうんですよ。あの男性の体の中に入った(黒い人型)のようにね。  あの男性のもともとの魂は追い出されて、今はハンカチに包まれて私の鞄の中にある。  このたまごはまた誰か、ストレスを抱えてそうな人に托卵(たくらん)しましょうか。私のストレスで育った魂も美味しいですが、いささか飽きもきていますしね。  私は改めて鞄から男性の魂の入ったたまごを取りだした。 「私、ご忠告させていただきましたよね。もう黄色の外側に出てはダメですよと。黄色を超えて橙になった時点で私の忠告を思い出して頂ければ良かったのに。普通の虹は、内から外に向けて、紫藍青緑黄橙赤と並ぶんですよ。橙になった時点で危険に気づいてくれたならば、一緒に食べごろの魂を食べられた(やれた)のに残念でしたね。うーん、私のようにメルヘン溢れる存在でないと、あの忠告では難しすぎたかもしれませんね、反省、反省」  ストレスに染まった魂に乗っ取られたあの男性の体は、今頃一番のストレスを与えてきたお相手の首を切り裂きに行っているのでしょうか。まあ、私には関係ありませんが。  さて、また美味しい魂を戴くためにストレスフルな人を探しましょうか。 了                        
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