紫色のたまご

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「どうですか? 少しは心が軽くなったような気がしませんか?」 「えっ」  確かに、さっきまで心の中に溜まっていたどす黒いストレスが減ったような気がする。今はまた心の均衡が保てているのか、希死念慮はどこかにいってしまったように感じる。やっぱり溜め込むんじゃなくて、人に話すって大切なんだな。 「ね、心が軽くなったでしょう。そして、今あなたは、誰かに話すって大切なんだなって思っているでしょう」 「なっ」 「それ、間違ってますよ」 「はっ」  なんだよ、人に話したから気が楽になったんじゃないのかよ。それなら、何なんだよ。 「その答えはなんですよ」  そう言って男性は、俺の目の前に紫色のたまごのようなものを差し出した。 「たまご?」 「はい、その通りたまごです」  やっぱり、たまごか。さっぱり、わからん。 「説明が足りなさ過ぎましたね。こちらのたまご、世にも不思議なたまごでして、吐き出されたストレスを吸収してくれるんですよ」 「んっ」 「つまり、あなたがこのたまごに向かって心の奥底に溜まった汚泥のようなストレスを吐き出すと、たちまちにこのたまごがそれらを吸収してくれるのです。するとビックリ、あなたのストレスは綺麗さっぱり無くなります」 「そっ」 「そうです。このたまごがある限り、あなたの生活はストレスフリーになるのですよ。どうですか、先ほどもお伝えしたように、ここで会ったのも何かのご縁。どうぞ、こちらのたまごをお貸ししましょう」 「こっ」 「はい、こちらをそのままお持ちいただいて結構ですよ」  男性は俺の手のひらにを乗せてきた。
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