紫色のたまご

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 ある日、いつものように茹で卵ケースに入れたたまごの入った鞄を、うっかりタクシーに置き忘れてしまったのだ。運良く、鞄も財布もたまごも無事に戻ってきたから良かったものの、この一件で俺はたまごを無くすこと、置き忘れてしまうこと、なんかの拍子で割ってしまうことが怖くてたまらなくなったのだ。  そんなこともあり、今では最初の頃のように、持ち運んでいつでもストレスをぶつけることもできず、何かストレスを感じると一回家に帰って、たまごにストレスをぶつけてスッキリしてから、もう一度仕事に出るような生活になっていた。  そんなたまごとの生活を続けていくと、再びたまごに変化が現れた。 「橙色……か?」  黄色だったたまごは、ところどころ橙色になっていた。 「しかし、この前まで緑色だったのが黄色になって、今は橙がかってる。なんか、すっぱいミカンが熟して美味しくなるような感じだな。まあ、俺の心も成熟していってるんだろう」  よく分からない理屈をつけて、これで俺の心は温かく平穏に満ちた状態に近づいたんだと納得しようとしていた。そんな時、携帯電話がけたたましく着信を告げた。 「はい、はい、えっ、わかりました。すぐに準備して先方に向かいます。はい、では羽田空港で待ち合わせということで」  きた、きたきたきた。ずっと頑張ってきた大口取引き。ついにプレゼンテーションをさせてもらえるまでにもってこれた。課長も一緒に行ってくれるって言うし、これは大勝負だ。よし、絶対に契約取ってやる。  そして、俺は大急ぎで荷物を詰め込み、羽田空港に向かった。この時は、橙色に変わったたまごのことなど完全に忘れてしまっていた。
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