紫色のたまご

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「で、たまごはどちらに?」 「あ、すいません。家の中に。今、鍵を開けますので」  慌てて鍵を開けて玄関のドアを開ける。一週間ぶりの我が家は何とも言えない匂いで充ちていた。 「うっ、なんだこの匂い」  思わず袖口で口覆って、空気を入れ替えるべく窓を開けた。 「ああ、これはたまごの匂いですよ。孵化する直前はこんな匂いになるんですよ。まあ、何回嗅いでも慣れませんがね。それにしても、腐ってなくて良かったですね」 「孵化する直前?」 「はい、うーんこの感じだと、もうあとで孵化する感じですね」 「一回?」  一回? 一日とか一時間じゃなくて一回。何の回数だろう。 「はい、あなたがあと一回、ストレスを吸収させたら孵化しますよ」  あ、そうか。ストレスをぶつける回数か。じゃあ、あと一回ストレスをぶつければいいってことか。  ストレス、ストレス……。やばい、今の俺、仕事もうまくいっててストレスないじゃないか。これじゃあ、孵化させられないまま、たまごを返さないといけないのか? 「ちょっと待ってくれ。俺、今、ストレスがないんだよ。だから今たまごを返すと、なにが生まれるのか見られないんだ」 「いや、孵化させなくても「孵化するところが見たいんだよ。頼むよ。あーもう、なんでこんな時にストレスがないんだよ」  ピシッ 「えっ」  ピシピシピシ、パリン 「へっ、あ、やった。なぜだか分からないけれどたまごがかえったよ。やったよ」  たまごから生まれたのは、黒い小さな人型の何か。人型の何かは、自身の手足を曲げたり伸ばしたりと動きを確認しているようだ。 「なあ、これってな、グワッ」
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