紫色のたまご

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 黒い人型の正体を訊こうとした矢先、言葉を発するために開けた俺の口の中に黒い人型が飛び込んできた。 「グエ、アガァ」  なんだなんだなんだ、とにかくやばい。俺の意思や抵抗を無視して黒い人型が俺の体の中に入っていく。やばい、本能で分かる、やばい。俺が、俺がいなくなる。 「グェェェェェ」  僅かに残る自我は、俺の苦しそうな声とともに吐き出された。何も見えない、手足があるのかも分からない。分かることは、俺は俺の体の中から押し出されたということだけだった。 ◆◇◆◇  私はゆっくりとかがんで、床に吐き出されたものをハンカチで丁寧にくるんで鞄の中にしまった。 「まったく、残り一回なんて、なかなか味わえないものだったのに。一人で早合点して、私の楽しみを奪うなんて許せませんよね」  そんな私の言葉に反応して、先ほど鞄にしまったたまごとは別の、ジャケットのポケットに入れておいた私のたまごが橙色に淡く輝いた。 「おやおや、捨てる神あれば拾う神ありでしょうか。私のたまごも残り数回になったじゃありませんか」  私は男性の部屋の台所から、お椀を一つ拝借し、私のたまごを。お椀の中には、黒い人型のものが不器用にもぞもぞと動いている。 「うーん、いいですね」  私はみそ汁を飲むかのように、お椀の中の黒い人型のものを口の中に流し込み、ゆっくりと咀嚼する。 「まさに美味。過酷な環境で育てたトマトがより甘く育つように、ストレスにさらされて育ったは至極の味わいですな」
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