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翌日は朝から晴天だった。
引っ越し業者に荷物を運んでもらったあと、家族で千春を見送った。
「着いたらちゃんと電話してね」
「わかってる」
「腹の薬は持ったのか?」
「持ってるから大丈夫だよ」
私は目を細めて、家族の姿を見つめていた。
「じゃあ、行ってくる」
千春がバッグを肩に掛け、両親の顔を見る。
そして最後に、私を見て言った。
「さよなら、姉ちゃん」
私はにっこり笑って、千春に言う。
「バイバイ、千春」
「ちょっと、あんたたち! 一生の別れじゃないんだから」
「そうだぞ、いつだって帰ってこい」
「そのときは千春の好きなカレー作って、待ってるからね」
お母さんとお父さんの声に、千春も笑った。
でも返事はしないまま、背中を向けた。
見慣れた千春の背中に、心の中でつぶやく。
さよなら、千春。さよなら、私の恋。
春風が鼻をくすぐって、私は涙を隠すように、青空に向けて顔を上げた。
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