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少しでも舌でつぶそうとするけど、逆に舌に傷がついて、血が溢れて、喉が渇いて。
口を閉じれはするけど、閉じられるだけ。
口の中いっぱいに埋まるそれをなんとかして小さくするために、わずかに開いて、少し外に出しながら歯で一生懸命砕いた。
「……っ……――」
声も出せない。
呼吸も出来ない。
無限のような苦しみの中なんとか飲み込んだ私はそのまま意識を失った。
そして、翌日の今日。
私は、卵を2つ産んだ。
2つ産んだのは初めてだった。
汚れてしまったカスタードクリームのような黄色い殻の卵と、綺麗な空色をした卵。
私は、卵を産む時水の中に入る。本当はしょっぱい水の中の方が産みやすいのに、何かを恐れているらしい人たちは何も混ざっていない水の中に私を入れる。そして卵が産まれるまで私の下半身をにやにやしながら見つめ、卵が出るのを待つ。
だから、黄色い卵は皆の前で産まれた瞬間持っていかれた。
いつも一つしか産まないから私はすぐに真っ白な布団の上に運ばれた。産んだ後は身体の力を消耗するから私はなされるがまま。
だったのに
私は、周りの人がいなくなった瞬間。ころりともう一つ卵を産んだのだ。
苦痛のない産卵は初めてで吃驚した私は恐る恐る空色の卵を手に取った。
両手でやっと抱えられるくらいの、水色の卵。
一度行ってみたいと窓から何度も眺めた空の色をした卵。
頬までしかない私の髪と同じ色の、卵。
どうやって痛みもなく出てきたのか。
それが不思議でたまらなくて、抱きかかえながら隅々まで眺めた。自分の産んだ卵をじっくりと見つめる時なんて今まで一度もなかった私は、初めての感覚に鼓動が高鳴るのを感じていた。
つるりとしているように見えて、手で撫でると少しザラザラしている。
他の卵は生臭かったのに、澄んだ水の匂いがした。
コンコン、と拳で軽くノックをすると、中で何か動いたような気配がした。
ぎゅっと胸の中に押し込めるように抱きしめると、あったかかった。
心がポカポカして、安心して、呼吸が凄くしやすくなって。
私は、この時初めて、幸福という感情を知った。
でも、たくさん撫でたいという気持ちのまま動いた結果、体の痛みが蘇ってきてしまった。
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