オートバイが卵から孵る

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 オートバイの卵が孵化した。卵から顔を出したオートバイの雛は、はじめはきょろきょろしていたが、最初にわたしを見つけた。どうやら刷り込みがなされたらしく、わたしを親だと思って、わたしのあとをちょこちょこと付いて回るようになった。  オートバイの成長は早い。最近ではひとりでガス・ステイションまで行けるようになったし、大型トラックの間をすいすいと走り抜けることもおぼえた。生まれたばかりの頃と比べると、からだもずいぶん大きくなった。たのもしいことである。  わたしはかわいい水着を買った。シュモクザメがデザインされたビキニで、オートバイに見せたくて、時間をかけて選んだ。誰かのために水着を買ったのは初めてのことだ。  この夏、わたしとオートバイは海へ行く予定だ。早く太平洋横断高速道路ができるといいのに。そうすればわたしとオートバイは時速100キロを超え、海の上を飛んで行けるはずだ。カモメやトビウオだってびっくりするはずだ。マッコウクジラも見物に来るはずだ。わたしたちは銀色のかたまりになって、弾丸のように生きるだろう。ふたりだけの夏がもうそこまで来ているのだ。
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