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一日目からこうだ。
二日目の出勤前に二人はお昼に食べるものとコーヒーのペットボトルを買ってから入った。
午前10時にまたお茶の時間。
真希は慣れない作業に手間取り10分ほど過ぎてから、お茶をひとくち飲んだ。
「お茶の時間は終わったわよ」
享子がまたイヤミたっぷりに茶碗をひったくる。
(くそばばあ)
真希は心の中で悪態をついた。喜子も享子もアラカンだろうか?お局ぶりに誰もさからえないようだ。
「あなた、ロッカー開けっ放しだったわね」
「いつの話ですか」
「朝よ。開けっ放しで背中向けてバッグの中を見てたわね」
だから、なんなのか。意味がわからなかった。
「お里が知れるわ」
享子は真希の耳元でささやいた。
お昼がまたひと悶着だった。
真希と沙也はそれぞれサンドイッチとおにぎりを買って持ってきたのに
喜子がスパゲッティミートソースを作ったからと引かない。大きなタッパーに茹でたスパゲッティとソースを用意してあった。
「昨日も言ったように小麦アレルギーですから」
「お昼はサンドイッチ持って来ましたから」
二人は口々に言う。
いったいいつ茹でたスパゲッティだろう。食べる気になどならない。
「なら、ご飯もあるから、それにミートソースかけていただきなさい」
またまた真希と沙也は顔を見合わせた。美味しそうには思えない。
「それは、遠慮します」
「なんで。うちの子大好きだよ」
「白蓮さんちの子じゃないんで」
真希が言い返す。
喜子は鬼の形相になった。
「みんなで同じ釜の飯を食べるのが尊いのに、あんたたちは」
「ハラスメントです」
「アレルギーなんてあるわけないじゃない、わがままばっかり言って」
「ハラスメントです。アレルギーのある人に無理に食べさせるのは殺人です」
「でたらめを言うんじゃないの。食べて死ぬなら死んでもらおうじゃないの」
「言いましたね。すべて録音してあります」
真希はスマホを出した。
真希と沙也はプレハブの作業室を出た。区役所の文化財担当者と大学の学生課に話に行くつもりだった。
が、鬼はそれではすまなかった。小麦アレルギーの沙也の後ろから喜子は近づくと肩を押さえつけ、スパゲッティを沙也の口にまとめて押し込んだ。
「うぐっ」
「沙也!」
あわてて真希は沙也の背中を叩いた。
「アレルギーなんてあるわけないわ」
鬼はかんらと笑う。
沙也の顔はあっという間に真っ赤になり呼吸が荒くなる。
真希は救急車を呼んだ。
遺跡の作業場には男性社員もいるが皆ドアの影から恐る恐るのぞいていた。
「どいつもこいつも」
真希の怒りは収まらない。
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