アレルギー 夏奈のゆったり事件簿②

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「やはり、谷三十郎は暗殺されたイメージが強いな。斎藤一さんが一刀で」 「子母澤寛の創作のインパクトがありすぎ。『新選組物語』に書いているから文字通り物語だと思う。斎藤一を左ききの設定にしたり」 「左ききはまずあり得ないからね。幼少の頃から矯正されただろうから。それでもちょっと期待しちゃうかも」 「西村兼文の『新撰組始末記(壬生浪士始末記)』の“故ナクシテ頓死ス。何カ故アルヨシ”も意味深よね」 「他に一級史料が少ないところに、これだもんね。暗殺されていたら京都の町雀たちがワッと飛びつく話題だと思うのだけど」 暗殺に興味がある、ひかりが小首をかしげる。 「みんな天誅好き過ぎるよね。ゾゾゾ」 「今でも天誅絵日記があんなに残されているのだから」 「十種類以上あるよね。ホントに死体を見に行って模写しちゃうんだからスゴい」 「三十郎も祇󠄀園石段下っていうメインストリートで倒れていたというのだから、もっと目撃情報があっておかしくないな」 「大酒の癖で脳卒中、ていうのが、やはり結論かな」 「史料はあるものね。『近世雑話』。万代修さんの『新選組追及録』に書かれている」 「そうなると…」 ひかりもアイスコーヒーを飲み干す。 「三十郎ってどちらかといえばへりくだるタイプに思えて。でも、大酒の癖があったら、呑ませた時に人が変わって、ていうパターンかもしれない」 「それはそれで厄介。アルコール依存性っていったら芹沢鴨だけど」 夏奈も少し憂鬱な顔になる。 「依存性の人は普段はほんとおとなしいじゃない。三十郎が『新選組は見かけほど強い隊士がいなくて私がいつも先頭に立つ』と愚痴をこぼした話が遺されている。へりくだりすぎる人も厄介だけどお酒で人が変わったりしたらますます厄介」 「そうか。三十郎があまり好かれていなかったのも根拠がないことではないのかも」 「だから、言葉は悪いけれど、三十郎が亡くなってやれやれと思う人がいたのかも。だからといって弟の万太郎や周平に冷たく当たるようなことまではしなくて。でも周平は新選組に居ずらくなったのかな」
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