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「お主らには助けてもらったお礼をせねばなるまい」
小さな口元に薄い微笑を浮かべると、彼女は何やら懐をごそごそと漁りだした。
「お、お礼なんてそんな!」
「いいんじゃない? くれるって言うんだし、貰っておけば」
自分は何もしていない。助けたいと思ったが、身体が竦んで結局思うように動けなかった。
いくら学校で上辺だけ取り繕っていても、いざという時に勇気を出すことができない自分に嫌気がさしてくる。
「これをそなた達に授けておく」
言われるがままに手を差し出すと、懐からころりと卵が一つ落ちて手のひらの上に収まった。内側から不思議な光を発しているそれは、とてもこの世のものとは思えないほど美しい輝きを放っている。
「その卵は持ち主の心を栄養源にして育つ。負のエネルギーが強ければ邪悪な力となり、正のエネルギーが強ければ聖なる力となるだろう。あー、……まぁ、要するに気を付けるのだな」
それだけ言うと少女の身体はすうっと透けていき、やがて消えてしまった。
えぇ!? 消えた!? 慌てて辺りを見回したが、彼女の姿はもうどこにもない。
狐につままれたような気分だったが、掌の上には鶏の卵の2倍ほどの大きさがある卵が幻想的で美しい光を放って鎮座している。
「なんだったんだろう、今の子……」
「さぁ? でも、最後の方の説明、絶対面倒くさそうになってたよな」
苦笑いを浮かべる黒沢につられて、思わず吹き出してしまった。
それにしても、妙な事になってしまった。貰ったはいいがこの卵はどうしたらいいんだろう?
「俺ん家、猫飼ってるんだよね。うっかり遊んで割ったら後味悪いし。有栖川が育ててよ」
「うえ!? 僕?」
神様(らしき少女)から貰ったものを何もしていない自分が持つのは流石に気が引ける。
「あ! じゃぁ、僕の家で一緒に育ててみない?」
「え……?」
咄嗟に言ってしまって、しまったと思った。彼とは同じクラスだがそこまで仲がいいというほどではない。
話したことだって一回か二回くらいしかないのに、いきなりこんな事を言ったら流石に迷惑だったよな。もしかして引かれてしまったのではないだろうか?
不安になって見上げると、黒沢はフッと柔らかく笑った。
「いいね。楽しそうじゃん」
あ、よかった。引かれてはいなかったみたいだ。こうして奇妙な縁で繋がってしまった二人は、真央の家で謎の卵を育てることになった。
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