不思議な縁

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それから一週間。学校が終わると二人は真央の自宅へと向かうようになった。 学校の友達を家に連れて来るなんて初めてで、戸惑う部分も大きかったのだが、今ではすっかり部屋に彼が居ることが当たり前になってしまっている。 「なぁ、コイツ前より色が濃くなってないか?」 「え? そ、そうかな?」 確かに言われてみれば貰った時よりも若干赤黒く染まっているようにも見える。 タオルで包んだだけのそれは日に日に大きく成長し、今では両手に乗るサイズになっていた。 一体どんな生きものが生まれて来るんだろう?どうせなら可愛いのがいい。 「蛇とかトカゲだったらやだなぁ」 「それな!」 そんな他愛もない会話が楽しい。思わず表情が緩んだ真央を見て、黒沢がポツリと言った。 「有栖川はさ、そっちの方がいいよ」 「え? なに、突然」 「俺、ずっと思ってたんだ……いっつも笑ってるけど、その顔が作り物っぽいって言うか……無理してみんなに話合わせてるんじゃねぇの?って」 思わず言葉を失ってしまった。まさか見抜かれていただなんて思ってもみなかった。 「無理に周りに合せる必要なんて何処にもないのに。せっかく綺麗な顔してんのに、仮面みたいな笑顔張り付かせてんの勿体ないよ」 心臓がドキリと跳ねた。今まで生きてきて、容姿を褒められたことは一度もない。 特に大きな特徴もない平凡な顔立ち、少しでも男らしく見えるようにと高校デビューに備えて短くした髪は伸びきっていて、うっすら目にかかり始めていた。 コシのない猫のような髪はスタイリングが上手くいかず、朝から鏡の前で格闘しているせいで寝癖がついていることも多い。 小学生に上がるころには既に女みたいな名前と容姿のせいでイジメの対象になっていたため、それからずっと自分の外見に自信が持てないでいる。 それを、綺麗だなんて……。 「もしかして、目ぇ悪い?」 「なんでだよ!?」 「だってさ、男相手に綺麗って……そんなの言われたことないし」 俯いて黙り込んでしまった真央に黒沢はバツが悪そうな顔をすると頬を掻いた。 「俺は思ったことを言っただけだ。まぁ、でも……、普通に気持ち悪いか。変なこと言って悪かったな」 そう言って笑う彼はいつも通り優しげだったが、どこか寂しそうな影を帯びているように見えた。 「……別に、気持ち悪くなんか……ないよ」 「え?」 「あ、いや……なんでもない」 慌てて口をつぐむと、思わず視線を逸らす。黒沢もこの話題は良くないと思ったのか、その後は普段通りの態度に戻っていったので、二人の間に流れていた微妙な空気は自然消滅していった。
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