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その日は数日ぶりに、黒沢と一緒に帰った。
二人で並んで歩くのは随分久しぶりな気がする。黒沢はいつもの笑顔に戻っていたし、少しだけいつもよりも距離が近いような気がする。
「今日の有栖川、凄くカッコよかった」
「そ、そうかな? 僕はただ、ああいうのが許せなかっただけで」
真っ直ぐな賛辞に思わず頬が熱くなるのを感じる。照れて目を伏せていると黒沢の手が伸びてきて頭を撫でられた。その手が優しくて、なんだか泣きそうにな気分になった。
「……僕、中学までずっと虐められて来たから。本当は凄く怖かったんだ。また繰り返すんじゃないかって思って。でも、それ以上に黒澤君を傷付けようとしてるのが許せなかったから」
「あぁ、そっか……。なんであんな奴と仲良くしてるんだろうって不思議だったけど、そう言う事だったんだ」
黒沢は納得がいったように何度か小さく相槌を打つと、ふっと微笑む。
そして、真央の目元に手を伸ばすと指先で軽く触れた。
触れられた部分が熱い。
「でも、ちゃんと言い返せたじゃん。大丈夫だよ、今度は苛められない」
「そう、かな?」
「そうだよ。クラスの皆がきっと守ってくれる」
本当にそうだろうか? 今までの経験則ではみんな苛めに気付いても知らんぷりしていたけど。
「それに、俺は有栖川の味方だよ? みんなが守ってくれなくたって、俺が守ってやるし」
黒沢の言葉に心臓が大きく跳ね上がる。
「黒沢君って、すごく恥ずかしい事さらりと言うよね」
「そう? 本心なんだけどな」
そう言って、フッと笑った彼の笑顔につられて、真央も思わず表情を緩めた。
「やっぱり……、その顔がいいよ」
「へッ!?」
「作った笑顔なんかより、ずっと今の方が自然でいい。俺は好きだよ、有栖川の顔」
黒沢はそう言って笑うと、真剣な顔をしてじっとこちらを見つめてくる。
彼の言葉になんだか胸がドキドキして顔が熱くなるのを感じる。
「――っ、あ、ああそうだ! 卵! 随分大きくなったんだよ!」
微妙な空気に耐え切れなくなって、咄嵯に話題を変える。黒沢は一瞬驚いたような顔を見せたが、直ぐに柔和な表情を浮かべた。
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