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不思議な縁
梅雨特有の湿った空気が肌に纏わりつく不快感に、有栖川真央は思わず眉をしかめた。昨日まで降り続いていた雨はようやく上がったものの、分厚い雲がまだ空の大半を覆っていて日差しがないせいか、いつもより更に蒸し暑さが増しているような気がする。
高校に入学して早二か月。そろそろ学校生活にも慣れてきたとはいえ、まだまだ不安やストレスを感じることは多々あるし、周囲から浮かないために自分を偽り続けるのは精神的にも疲れる。
でも、地獄のような中学時代を思えば、まだマシな方だ。女みたいな名前のせいで学校に馴染めず、クラスのカースト上位に目を付けられた挙句に散々苛められていた日々に比べれば、今の状況は天国だ。
全く興味の湧かないグラビアやAVの話でも、適当に相槌を打っていればそれなりに会話は成立するし、クラスの女子とだって最初は緊張して上手く話せなかったけれど最近では普通に接することができるようになって来た。
もうあの頃の自分には戻りたくない。あんな惨めで苦しくて辛いだけの毎日なんて絶対に嫌だ。
神様どうか、高校三年間は平穏無事に過ごせますように――。学校の近くで最近見付けた古ぼけた神社でお参りをしてから帰ろうかと、足を踏み入れたその瞬間。
「いやっ……!」
神聖な空気を切り裂くようなくぐもった悲鳴に思わず足を止めた。
「止さぬか、この罰当たりが!」
境内の裏手から聞こえて来る声に慌てて駆けていって覗き込むと、大柄な少年二人が小さな少女を取り囲んでいた。まだ小学生ほどだろうか、巫女さんのような服を着た少女に卑下た笑みを浮かべた男たちの手が伸びている。
助けなきゃ! 頭ではそうわかっているが、肝心の体が動いてくれない。中学の頃、苛められていた時の記憶がフラッシュバックして蘇り益々足が竦んで動けなくなった。
正直言って怖い、でも……このままじゃ。
迷ううちに、少年たちが少女の服に手を掛けた。いけない! と思い、意を決して足を踏み出そうとしたその瞬間――。
「……何やってんの? あんた」
突然、背後から声がして振り返る。そこにはクラスメートの一人である黒沢が立っていた。
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