玉子を求めし者たち

2/5
前へ
/5ページ
次へ
♯♯♯  今日の夕方四時前。小学五年生の俺は足取り重く、近所のスーパーマーケットに向かっていた。母さんに玉子を買ってきてってお遣いを頼まれただけだから楽しいはずがない。お菓子も買っていいって言われたから、嫌々、渋々。買い忘れたのなら、自分で買いに行けばいいのに。  明日買えばいいじゃんって言っても、今日は玉子の日で二割引きだから。今日使うんだから仕方ないでしょ。それとも、母さんの代わりに晩御飯の用意してくれるの? なんて言い返されて、無理やりお遣いを押し付けられた。大人はずるい。  スーパーに着くと、俺はうつむき加減で足早に目的の玉子売り場へと向かう。学校じゃない外で、母さんの言いなりでお遣いをしている姿をクラスの誰かに見られるのは、なんだかとても恥ずかしい姿を目撃されるようで嫌だ。  さっさと用件を済まして帰りたいのに、いつもは母さんと来ているせいで、肝心の玉子売り場がどこか分からず、見つからない。だからといって、店員に尋ねるのもやっぱり恥ずかしくてできない。  散々歩き回り、店内を二周くらいしてから、玉子は売り切れてたって嘘ついて帰ろうか、なんて考えだした辺りで、ようやく玉子売り場を見つけた。まさか、入り口から真っすぐ行ったところにあったなんて、どうして気づかなかったんだろう。  これで目的達成。良かった。誰にも見つからずに帰れる。意気揚々と玉子の積まれたカゴへと向かう。  しかし、そんな俺の前に一人の男が立ち塞がった。 「ここを通すわけにはいかないな」  玉子売り場の前で仁王立ちをする男。顔を上げると、クラスメイトのショウが不敵な笑みを浮かべて腕を組んでいた。  ショウは保育園からの友達で、何かにつけて俺と競いたがる。五十メートル走のタイムだったり、給食をどっちが早く食べ終わるかだったり。勝敗は内容にもよるけどマチマチ。格好良く言えば、宿命のライバルだ。  そんなショウが何故か玉子売り場の前で立ち塞がり、俺に玉子を取らせまいとしてくる。 「まさか、お前も……?」  尋ねると、ショウはゆっくりと、大きく頷いた。  やはり、ショウも俺と同じ、玉子を求めし者らしい。  芝居がかった仕草で妙な台詞を言ってくる。これは、俺とショウの勝負の始まりの合図だ。 「何も言わずに、そこをどいてくれないか?」  玉子なんて幾つも有るんだから、一つくらい分けてくれてもいいじゃないか、と少し目を細めて流し目で、声も少し低めでか細く問う。ショウは静かに目を閉じて、ゆっくりと首を横に振った。何も答えるつもりはない。という表情だ。 「本当に、戦うしか無いのか?」  諦めきれないといった表情で小ぶりを握りしめ、俺は再び問う。 「くどいぞ」  しかし、ショウは少しも心揺らすことなく否定した。どうあっても、俺に玉子を買わせるつもりはないようだ。  どうやら、ショウを倒して手に入れる他に無いらしい。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加