玉子を求めし者たち

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「そっか。ならもう何も言わないよ」キョウカがふっと穏やかに微笑む「でもね、ひとつだけ思い出して。お兄ちゃんの本当の想いを」  俺の、本当の、想い?   キョウカの言わんとしていることが察せず、俺は混乱する。  俺は母さんにお遣いを頼まれて、玉子を買わなくちゃいけなくて。それなのにショウに及ばず、玉子を手に入れる事ができない。そんな、俺の、本当の想い? 「どうした? 来ないならこちらから行くぞ?」  ショウが床を蹴ってこちらに向かってくる。  そうか、俺は……。  一陣の風が、吹いた。 「な、何が起こっているんだ?」  足を止めたショウが困惑の表情で様子を窺っている。まるであと一歩でも前に進んだら負けるということを本能で察しているようだ。  そんなショウとは対象的に、俺の心は澄み切っていた。波紋一つ無い水面のように穏やか。しかし、それでいて、心の奥底の闘争心は失われていない。 「ど、どうして俺は震えているんだ?」ショウは震える腕を反対の腕で鷲掴み、無理やり押さえようとしている「まさか、こいつの力に怯えているとでも言うのか?」 「俺は……」  警戒心も何もない、まっさらな気持ちでショウに近付いていく。ショウは怯えきった瞳でこちらを見ている。 「う、うおぉぉぉ!」  獣のような唸り声を上げてがむしゃらに突っ込んでくるショウを、俺は片手で止めた。 「俺はお肉のほうが好きなんだぁ!」  渾身のボディブロウを入れると、ショウは一撃でその場に沈んだ。前のめりに突っ伏したまま、動かない。  後ろでキョウカが「へ?」とぽかんと口を開けたままでいる。  これが、俺の本当の想い。  小学生男子がお肉より玉子のほうが好きなはずないだろ。本当はお遣いを頼まれたときだって、晩ごはんは玉子だって聞いて正直がっかりした。いっそ、もらったお金を全部お菓子に変えてやろうかとも考えたさ。でも、母さんに叱られるのは嫌だから渋々玉子を買って帰ろうとした。 「よくぞ、この俺を倒した。さあ、好きなだけ玉子を買うが良い」  憑き物が落ちたように清々しい笑顔でこちらを見上げてくるショウを、俺は冷ややかに見下ろす。  それなのにこんな変なやつに絡まれて、痛くて苦しいのに帰ったら晩ごはんは玉子だなんて、正直、嫌になる。 「好きにさせてもらうよ」  ふっと爽やかに笑い、俺は目的の物を手に入れて帰ることにした。  後ろでちゃっかりとキョウカが玉子を買っているのが目に入った。  これで、俺に課せられた使命は終わった。お遣い達成。ミッションコンプリートだ。達成感で満ち足りた心で、意気揚々と家路についた。  その後、玉子ではなくお肉を買って帰った俺は、当然母さんにしこたま怒られた。
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