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遠坂はそのまま、ベッドの下で胡座をかいた。
「...俺は...クォーターなんだ、祖母が外国人で」
「...はい」
遠坂はそっと片目を隠した。
「髪の色も、肌も...そこそこで済んだのに、目だけ強く出た...これのおかげで、子供の頃はよくいじめられてね」
言葉を解禁した遠坂の雰囲気はぐっと色をつけた。
...美声。
これまで耳にした事のない、とても穏やかで、艶のある声だった。
「祖母が、よく慰めてくれたんだ」
遠坂は、微笑んだ。
美桜の肩から落ちた掛布を引き上げて、少しだけ口を閉じて。
「でも、ウチはお堅い家系で...親父は厳しくてね...泣き言は許されなかった」
「祖母はもともと、通訳として日本に来て祖父と出会って結婚したんだ」
思い出す事が辛いのか、遠坂は考える様にして言い淀んだ。
「祖母との、内緒話の手段だった...手話が」
手話通訳士としても活動していた遠坂の祖母と、遠坂との会話は、時に手話で交わされていた。
「...その祖母が、亡くなった原因が...俺の我儘で...その後俺の失言で大切なものを手放した」
それが何かまでは、遠坂は口にしなかった。
「ショックで、一時的に難聴になってね...すぐ治ったけど...俺はその時そのままでいいと思ったんだ」
だから、聞こえて居ないふりをし続けた。
「誰とも、話したくなかったから」
それに、と遠坂は続けた。
「耳が聞こえなければ、家から離れる理由が出来る...絵を描いていられる」
家を継ぎたいと思い続けた美桜と、それとは正反対の気持ちで生きてきた遠坂が、ここで出会った。
「......何度も、君の独り言に返事をしたくなって...君の頑張りに、お礼を言いたくて...困った」
だから、もうやめることにした。
と、遠坂は言った。
「俺は話したい、君の声を...無視したくないんだ」
これまでの無礼を許して欲しい、と握った手に力を込めた遠坂が美桜を見上げた。
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