409人が本棚に入れています
本棚に追加
魔王の所有物
私が引きずり込まれ、転移したソファーの横には、魔王のステファンが立っていた。恐ろしいことに、こんな状況に慣れてきている自分がいた。眠い目をこすりつつ、魔王様に返答した。
「明日の朝も早いので、用件でしたら手短にお願いします」
「あのな‥‥‥」
「??」
「せっかく、所有物にしてやったというのに‥‥‥」
「ですから、その所有物とは奴隷ではないのですか?」
「はぁ?? 誰から聞いたんだ?」
「誰も‥‥‥。ただ人間界で所有物というと、『奴隷』みたいな意味合いが強いと思われまして‥‥‥」
「奴隷ねぇ‥‥‥。いくら何でも、魔王が人間を奴隷にするなんて、平和協定の内容にも違反するだろ」
「そうなんですね。では、意味とは‥‥‥?」
「まぁ‥‥‥。あれだな、人間界でいうところの『婚約者』だ」
「はぁ??」
一歩後ずさった私に、魔王は慌てた様子で弁解していた。
「おい、ちょと待て。最後まで話を聞け‥‥‥。つまり、仮の婚約者だ」
「仮?!」
「この間も言ったが、ここ最近、いつにも増して刺客が増えてるんだ。しかも、対象が俺じゃない」
「‥‥‥もしかして私?!」
「もしかしなくても、たぶんな」
「はぁ‥‥‥」
「そんなに嫌なのか? 所有物になるのが‥‥‥」
「はい」
魔王ステファンは、もしかしたらモテるのかもしれない‥‥‥。私が嫌な顔をすると、目に見えて落ち込んでいた。
「でも‥‥‥。そんなに嫌いではないです」
「そんなに嫌いではないんだな?」
赤い目を輝かせた魔王は、明らかに嬉しそうだった。
「えっ‥‥‥。はい」
「そうか。それは良かった。それでは今日から隣室で休め」
「えっ?!」
「所有物の部屋は、魔王の隣室と昔から相場が決まっているんだ」
魔王は、部屋の奥にある隣室へと続くドアを親指で指差した。どうやら、廊下とは別のドアで隣の部屋とつながってるらしい。
「魔王領の掟ですか?」
「‥‥‥そうだ。それに、何かあった時の為に、護衛は必要だろう?」
「はぁ‥‥‥。いいんですか? 魔王が護衛で」
「ああ、構わない」
(魔王様が護衛だなんて、世界最強の護衛かも‥‥‥)
「分かりました。ふつつか者ではございますが、よろしくお願い致します」
「ああ」
魔王ステファンは虚を突かれたのか意外な顔をしていたが、私が「眠いのでもう寝ます」と言うと、笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!