魔王の所有物

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魔王の所有物

 私が引きずり込まれ、転移したソファーの横には、魔王のステファンが立っていた。恐ろしいことに、こんな状況に慣れてきている自分がいた。眠い目をこすりつつ、魔王様に返答した。 「明日の朝も早いので、用件でしたら手短にお願いします」 「あのな‥‥‥」 「??」 「せっかく、所有物にしてやったというのに‥‥‥」 「ですから、その所有物とは奴隷ではないのですか?」 「はぁ?? 誰から聞いたんだ?」 「誰も‥‥‥。ただ人間界で所有物というと、『奴隷』みたいな意味合いが強いと思われまして‥‥‥」 「奴隷ねぇ‥‥‥。いくら何でも、魔王が人間を奴隷にするなんて、平和協定の内容にも違反するだろ」 「そうなんですね。では、意味とは‥‥‥?」 「まぁ‥‥‥。あれだな、人間界でいうところの『婚約者』だ」 「はぁ??」  一歩後ずさった私に、魔王は慌てた様子で弁解していた。 「おい、ちょと待て。最後まで話を聞け‥‥‥。つまり、()()婚約者だ」 「仮?!」 「この間も言ったが、ここ最近、いつにも増して刺客が増えてるんだ。しかも、対象が俺じゃない」 「‥‥‥もしかして私?!」 「もしかしなくても、たぶんな」 「はぁ‥‥‥」 「そんなに嫌なのか? 所有物になるのが‥‥‥」 「はい」  魔王ステファンは、もしかしたらモテるのかもしれない‥‥‥。私が嫌な顔をすると、目に見えて落ち込んでいた。 「でも‥‥‥。そんなに嫌いではないです」 「そんなに嫌いではないんだな?」  赤い目を輝かせた魔王は、明らかに嬉しそうだった。 「えっ‥‥‥。はい」 「そうか。それは良かった。それでは今日から隣室で休め」 「えっ?!」 「所有物の部屋は、魔王の隣室と昔から相場が決まっているんだ」  魔王は、部屋の奥にある隣室へと続くドアを親指で指差した。どうやら、廊下とは別のドアで隣の部屋とつながってるらしい。 「魔王領の掟ですか?」 「‥‥‥そうだ。それに、何かあった時の為に、護衛は必要だろう?」 「はぁ‥‥‥。いいんですか? 魔王が護衛で」 「ああ、構わない」 (魔王様が護衛だなんて、世界最強の護衛かも‥‥‥) 「分かりました。ふつつか者ではございますが、よろしくお願い致します」 「ああ」  魔王ステファンは虚を突かれたのか意外な顔をしていたが、私が「眠いのでもう寝ます」と言うと、笑っていた。
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