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魔王との朝食
次の日の朝。目を覚ますと見慣れない天井に焦って起きたが、ふと夜中の出来事を思い出して思わず溜め息を吐いた。
「何だか落ち着かないわね‥‥‥」
寮の方が質素な分、落ち着いた雰囲気があって、前世日本人の私としては、そっちの方が良かったのだが‥‥‥。そんなワガママを言える雰囲気ではなかった。
壁や棚にある豪奢な装飾や、キラキラとした家具に辟易としながらも、ベッドから起き上がろうとすると、天蓋ベッドの仕切り布の向こうから声が聞こえた。
「おはようございます、セシル様」
ベッドについているカーテンを開けると、そこにはメイド服を着た初老の女性が立っていた。
「セシル様付き、メイドを仰せつかりましたコリアンナでございます。朝食のご用意が出来ております。まずはお召し替えくださいませ」
私が洗面所へ行って戻ってくると、部屋にはたくさんのドレスが並んでいた。
「時間がございませんでしたので、これくらいしかサイズの合うものは集められませんでしたが、お気に召すものはこざいますでしょうか?」
「‥‥‥これにするわ」
私は100着をも超える衣装を目の当たりにして驚いた‥‥‥。けれど、私は臆することなく赤いドレスを選んだ。所有物なら、当然だろう。
「隣の部屋のダイニングで、魔王様がお待ちでございます」
私はドレスに着替えると、隣室のダイニングへ向かった。魔王ステファンは、すでに朝食を済ませたのかコーヒーを啜っている。席に座ると、スクランブルエッグとプチトマトのサラダ、それからカボチャのスープをコリアンナさんが配膳してくれた。
「ありがとう」
「用があるときは、お部屋のサイドチェストの上にあるベルでお呼びください。それでは、失礼致します」
メイドのコリアンナが去って行くと、部屋には魔王ステファンと2人きりである。なんとも気まずいまま朝食を終えると、コーヒーを啜りながら尋ねた。
「あの‥‥‥。1年だけなんですよね?」
「そうだ。それまでには、俺がお前の憂いを取り払って見せよう」
「なんで、見ず知らずの私に魔王である貴方がそこまでしてくれるの?」
「何故って‥‥‥。そんなの決まってるだろう? 所有物だからだ」
「‥‥‥」
(翻訳すると、婚約者だからだ‥‥‥。って、意味で合ってるかしら?)
「何か問題があるのか?」
「いえ、そういう訳では‥‥‥。それなら、なおさら悪いわ」
「問題ない。お前が所有物としての務めを果たしてくれれば、それで充分だ。」
(婚約者としての務めって何かしら‥‥‥)
私は魔王ステファンを見つめていたが、赤い瞳を見ていると何だが危うい感じがして、何も聞けなかった。
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