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面接官の仕事
部屋の中では25人から30人位の人達が、事務机に向かって働いていた。向かい合わせに二列に並んだ奥の席には、大きな長机が置いてあり、その席に座っていた人物は私達に気がつくと、こちらへやって来た。
身体は人間なのに、ひつじの頭をしている彼は、中間管理職らしく腰が低かった。同じ部屋にいる他の魔族は人間の格好をしているため、彼だけ余計に目立って見える。
「初めまして。セシル様。私は人事部部長のションリと申します」
「セシルと申します。お見知りおきを」
「やめやめっ、堅苦しい挨拶なしっ‥‥‥。今日は人事部を案内してくれんだろ?」
ストラウドは私達の前に入って手を横に振ると、私とションリさんに言った。
「はい‥‥‥。繁忙期の間、セシル様が手伝ってくれると聞き、私は嬉しくて嬉しくてもう‥‥‥」
ヒツジ部長は感極まったのか、泣き出してしまった。近くにあったメモ用紙で涙を拭うと、そのまま食べている。
「「‥‥‥」」
「何か?」
「エコ‥‥‥。えー、これから人事部を案内してくれるんですよねー、楽しみだなー」
私の棒読みゼリフに、怪訝な顔をしながらも面接を行う隣の部屋へと案内してくれた。
「うわ‥‥‥。すごい量ですね」
束になって置いてある名簿が7冊ずつ、テーブルの上に置いてあった。3つ椅子があるので、3人体制で面接を行うのだろう。
「人事部では、毎年応募してきた人、全ての方と面接をしているのですが、今年は既に予定の2名が決まっておりまして‥‥‥」
「「は?」」
「決まってるのに面接を行うのですか?」
「それが、その‥‥‥。「全員と面接する」と魔王城の掲示板には公表してしまっているので、応募していただいた全ての方と面接しなければならないのです」
「正直に言っちゃダメなんですか?」
「それが、その‥‥‥。上からの指示でして、どうにも出来ないのです」
「「はぁ‥‥‥」」
「私は受付でいいのかしら?」
「まさか?! 所有物の方に、そんなことは、させられません」
「次の方、入室されます!!」
ドアの外から、声が聞こえると思ったら、部屋の中へ魔族と思われる、耳の尖った女性が入って来た。
(えーっっ、話がちがうじゃないの‥‥‥。面接官って、何をすればいいの?!)
訳が分からないまま、私とストラウドはションリさんと共に、面接官用の椅子に腰掛けたのだった。
*****
「遅くまで、お引き止めして申し訳ありません」
「いえ‥‥‥。あれで、大丈夫だったのかしら?」
面接を受けに来た人への対応は、ほとんどションリさんが行っていたので、私とストラウドは座っているだけで、ほとんど何もしていなかった。
「問題ありません。大変助かりました」
ションリさんは低い腰を更に低くして頭を下げていた。
人事部を出ると、外はすっかり暗くなっていた。後ろから、ストラウドがついてくる。
「すっかりお昼ごはん食べ損ねちゃったわね‥‥‥」
「げ‥‥‥。忘れてた。魔族は一食くらい食べなくても平気なんだ。人間は、そうもいかないよな‥‥‥。ごめん」
ストラウドの落ち込みに、私は何も言えなかった。
「‥‥‥いいわよ、気にしないで。その代わり、夕飯をたくさん食べるわ」
「ああ、そうしてくれ。執務室まで送るよ。あのさ‥‥‥」
「なに?」
「いや、やっぱり何でもない」
「なによ‥‥‥もう」
「また今度、話す」
しばらく城に滞在すると言っていたストラウドと、執務室の前で別れると、そのまま魔王ステファンの元へ戻ったのだった。
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