婚約の儀

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婚約の儀

 次の日の朝。私は何故か魔王ステファンの部屋で婚約の儀を行う準備をしていた。 「ほんっとーに、後で解消してくれるのよね?!」 「ああ、成果を出せたらな‥‥‥。考えてやる」 (何よ‥‥‥。偉そうに。保護してくれてるのは助かるけど、いちいち突っかかるような言い方なのよね)  私は婚約の儀の為に白いワンピースに白の長手袋、それからヴェールを被って魔王の後に続いた。 「きゃっ‥‥‥」  私はお姫様抱っこされると、黒い渦に飲み込まれるように転移していた。 (何これ‥‥‥。気持ち悪くない)  今までワープするときは、軽く眩暈がしたり、少しだけ気分が悪くなったりしていたが、今日は全くと言っていいほど、そんな感じはしなかった。これも、婚約の雫の効果なのだろうか。 「着いたぞ」  私達の目の前には、洞窟への入り口があった。周りはジャングルのように草木が覆い被さるようにして茂っている。 「ここは?」 「代々の魔王が正妻を娶る際に誓いを立てる石碑のある場所だ。洞窟の1番奥にある」 「娶るって‥‥‥。まだ婚約でしょ」 「魔王領では、婚約は結婚とほぼ同義だ。婚約の誓いを立てたら、後は書類にサインするだけで結婚は成立する」 「結婚とほぼ同義? 何それ?! 早く言ってよ!!」  私の絶叫に魔王ステファンは、嫌な顔をしながら耳を塞いでいた。 「だから婚約だって、言ってるだろ‥‥‥。人の話聞いてるのか? ほら行くぞ」  魔王ステファンは、私の前に手を差し出すと首を傾げた。一応は、エスコートしてくれるつもりらしい。 「分かってるわよっ」 「お前、いくつなんだ?」 「年? 18だけど」 「じゃあ、あと800年は生きられるな」 「は?」 「魔王の寿命は約2000年なんだが、伴侶を得ると寿命は伴侶と分け合う事になっている」 「いらないわよっ‥‥‥」 「すまんが、そういう決まりだ‥‥‥。どの時点で分け与えられるのかは不明だが、そういう仕組みになっているらしくてな‥‥‥。俺にも変えられない」 「そう‥‥‥。800年って事は、ステファン様は400才ってこと?」 「まあな」 「そんなに長く生きていて、いい人はいなかったの?」 「お前な‥‥‥。魔族は、基本的に恋愛に興味が無いんだ。人族や獣人族の姫君を嫁にどうかという話もあったんだが、花嫁候補をこっそり見に行ったら、みな泣いて嫌がっていてな‥‥‥。後で、こちらから丁重にお断りしておいた」 「プッ‥‥‥。何それ? 魔王なのに空気読んだの?」 「お前も空気読んで、少しは大人しくしていろ」  私達は軽口を叩き合いながらも、薄暗い洞窟の中を真っ直ぐに進んでいった。 ***** 「すごい‥‥‥。何ここ?」  洞窟の突き当たりは、広場になっていて天井には青空が広がっていた。片田舎の牧場みたいな風景が広がっており、草地が広がる先には白いペンキで塗った柵が打ちつけられている。柵の向こうには、等間隔に木が植えられていた。 「空は偽物だが、草木は本物みたいだな」 「もっとジメジメした場所でやるのかと思ってたわ」 「スザンヌ‥‥‥。こっちだ」  魔王ステファンに手を引かれて、広場の端っこにある大きな木の前に行くと、木の根元には石碑が建っていた。 「魔族語?」 「読めるのか?」 「簡単な文字ならね」 「じゃあ、一緒に石碑の文字を読んでくれるか? スザンヌ」 「いいわよ。えーっと‥‥‥」 「「私達は苦しいときも楽しいときも、共に生き、戦い、命を分かち合い、生涯添い遂げる事を誓います」」 「って何これ、結婚の宣誓じゃないの?!」  私がそう言った瞬間、額の石は光り‥‥‥。やがて収束した。 「すごいな‥‥‥。きれいな赤色になっている」 「え? 石??」  私が持ってきていたマジックバックから手鏡を出して額を見ると、確かに『婚約の雫』は茜色に染まっていた。 「貴方の瞳の色にそっくりよ、ステファン。」  魔王ステファンは口に手を当てると、恥ずかしかったのか赤面していた。 「いきなり呼び捨てか」 「え?」 (あれ‥‥‥。なんで今、呼び捨てにしちゃったんだろ) 「ステファン様」 「遅い」 「何よ、もう」 「ほら、帰るぞ」  何かが星降ってくると思って顔を上げれば、空から赤い花びらが降ってきていた。魔王ステファンは私の手を引くと、お姫様抱っこをして洞窟の外まで駆けていった。洞窟の外へ出るとワープで私室に戻り、私も自分の部屋へと戻ったのだった。
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