レコルトとの闘い

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レコルトとの闘い

 2日後の昼過ぎ。先行部隊が現場へ到着した頃を見計らって、私とステファン様は転移魔法でレコルトのいる村へ向かった。  転移先では既に魔王軍がテントを張って待機しており、林を隔てた向こう側の村に住んでいる村民は、既に避難したと聞いている。時々、破壊音が野営地に響いてくるので、落ち着かなかった。 「魔王様!! お疲れ様でございます。こちらでございます」 「うむ、ご苦労」  魔王ステファンは、軍指令部と思われる簡易テントがある場所へ連れて行かれた。 「スザンヌ‥‥‥。焚き火の前で待ってろ」  広場の真ん中には四角い木箱が燃えていた。魔王領は気候変化がなく、一年中20℃前後の気温であるため寒い訳ではなかったが、焚き火の前に行き、暖かさを感じると安心した。  燃えている木箱の炎は赤かったが、箱の周り周りは緑の光につつまれていた。どういう構造なんだろう? そう思いながら、中を覗き込もうとしたら地面が揺れた。 「地震?」 「レコルトだ。レコルトが、こっちに来たぞー!!」  村での物色に飽きたのか、レコルトは林を抜けてこちらへやって来た。林と背の高さが変わらない巨大オークのような見た目のレコルトは、野営地の端に辿り着くとこちらを向いて薄ら寒い笑みを浮かべた。目は紫色で血走っており、身体からは黒い炎が出ているように見えた。  驚いて固まっていた私の前に、ステファン様がやって来て、庇うように前に立ち塞がった。 「こちらへ来てくれるとはな‥‥‥。ちょうどいい」 「グオオオオオオオオオオオオオォ」  レコルトが唸り声を上げると、魔王ステファンは何処からか剣を取り出し、地面を蹴ってレコルトに突撃した。  キィン──────  レコルトの身体は、金属で出来ているみたいに固いのか、魔王ステファンの剣を弾き返していた。 「こざかしい‥‥‥」  戦闘が激しくなると、動きが速すぎて、レコルトと魔王ステファンとの戦いの様子が、分からなくなっていった。 「ステファン様」  私が呟いた瞬間、何故か私はレコルトの手の中にいた。空中で鷲掴みにされ、今にも握りつぶされそうだ。 「ステファン様。私に構わず、やっちゃってください」 「は?」  私が時代劇の『お涙ちょうだい』のシーンを思い出してそう言うと、ステファン様に、もの凄く怪訝な顔をされてしまっていた。きっと、魔王ステファンにとって、レコルトを倒すことは、赤子の手を捻るより簡単な事なのかもしれない。 「いえ、すみません。助けてください」 「分かった。動くなよ」  次の瞬間、私は地面の上に叩きつけられるようにして、こちらへ戻ってきていた。どうやらレコルトの手ごと、自分のいる方へ持って来たみたいだった。切り取られた手から脱出すると、ステファン様の後ろに戻った。 「あと一振りで倒してやる‥‥‥」  魔王ステファンは地面を蹴ると、空中へ舞い上がり、回転しながらレコルトの頭上へ舞い降りた。剣を真上から振りかざして、レコルトへ突き立てていた。 「うおおおおおおおおおおおおおぉ!!」  魔王ステファンの剣がレコルトに突き刺さった瞬間、辺りは一瞬にして静まりかえり、剣から眩いほどの光が放たれた‥‥‥。レコルトは消えていなくなり、跡地には黒くて大きな魔石が残っていた。 「うおおおおおおおおおおおおぉ!!」  レコルトが倒されて、闘いに参加していた人達は、お互いを讃え合って、喜んでいた。けれど私は、腑に落ちない現象を目の当たりにして一人悩んでいた。 「あれって‥‥‥。聖剣?」  どうして魔王が聖剣を持っているのか、喜んでいる兵達を前に、誰にも聞けなかったのである。
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