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暗殺者
「なんだ‥‥‥。錬金術師への弟子入りじゃないのか」
「‥‥‥錬金術への興味や憧れは昔からあります」
「だったら‥‥‥」
「ですが、私は公爵令嬢。いつ、いかなる時も私情は持ち込めません。ここへは、一時避難のつもりで参りましたが、カイト様がいないとは‥‥‥。すぐにお暇させていただきます」
私が家を出ようとすると、手首を掴まれた。平民である彼は平気なようだったが、男の人に手を掴まれたのは、生まれ変わってから初めてだった。宝石のような青い瞳に見つめられ、動揺してしまう。
「おいっ、待てよ‥‥‥。錬金術に興味があるんだろ? 何故、出ていく‥‥‥」
「ここは、安全ではないからです。貴方に被害が及ばないとも限りませんし‥‥‥。それに若い男性と2人では、いらぬ噂が立ってしまいます」
「?!」
彼が呆気に取られているうちに、私は手を振りほどくと、ドアを開けた。すると顔の横を、鉄の矢がすり抜けて、家のリビングの床に突き刺ささっていた。
私は慌ててドアを閉めると、ほふく前進で彼の前まで行った。
「伏せてください!!」
「ここは先生が張った結界や罠がたくさん仕込んであるんだ。大丈夫さ」
彼がそう言った瞬間、ドアの外で悲鳴が上がった。男性の断末魔みたいな声に身体が縮こまる思いだった。
「‥‥‥巻き込んでしまって申し訳ありません。これで、お分かりになられましたでしょう? すぐに出ていきますから‥‥‥」
再び出ていこうとする私を、彼は腕を掴んで止めた。
「ちょ、ちょっと‥‥‥」
「俺の話、聞いてなかったの? ここにいれば、いくらか安全だって言ったんだ」
「でも‥‥‥」
「とりあえず、なんだろ? だったら、ここにいろよ。師匠が戻ってくるまでとは言わないけど、いろいろ事情があるみたいだし‥‥‥。最近、転移魔術を覚えたんだ。ソンソムニア王国より田舎だが‥‥‥。ここより安全な場所に送り届ける事が出来る‥‥‥。ちょっと待ってて。用意まで時間が掛かるから」
「いいんですか?」
「ああ‥‥‥。手伝ってもらうし、後で礼はしてもらうからな」
(なぜ命を狙われているのかは分からないけれど、修道院へ行くよりは安全な気がする)
私は少しの逡巡のあとに頷いた。
「分かりました。よろしくお願い致します」
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