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派遣社員
その後、呼び鈴で呼び出された執事が嫌な顔1つせずに、従業員用の寮へと案内してくれた。
「執事のアーデルハイドでございます」
「‥‥‥よろしくお願い致します」
こういう事は、よくあるのだろうか‥‥‥。色々と考え事をしながら歩いていた私は、いつの間にかどこかの部屋の前に立っている事に気がついた。
「今日は遅い時間ですし、明日にでも説明させていただきますね。7時頃、こちらへお迎えにあがります」
「はい。夜中に申し訳ありません。ありがとうございます」
執事は笑顔で頷くと「おやすみなさい」と言って、去っていった。部屋の中へ入るとベッドの端に腰掛け、ため息をついた。
部屋の中は、ベッドと机、それからタンスしかない部屋だったが、トイレとシャワールームが別についていた。少し手狭ではあるが、前世ワンルームで過ごしていた私としては、十分な広さだった。
「どうかしたにゃ?」
バッグの中に隠れていたアースは、顔を出すと目をクリクリさせながら聞いてきた。
「どうもこうもないけど‥‥‥。何だか目まぐるしい1日だったわ」
「そうだにゃ〜」
「ねぇ‥‥‥。ここって、魔王城なのよね?」
「何で?」
「さっきの人、城の主って言ってたわ。魔王城の主って事は、もしかして魔王?!」
「いいとこ突いてるにゃ!!」
「待って‥‥‥。ストラウドのお兄さんって、言ってたわよね? って事は、ストラウドは魔王の弟なの?!」
「よく分からないけど、主は魔族にゃ〜」
ここへ来て、重大な事実に気がついてしまった。私は考えることを諦めてベッドに倒れ込んだ。
「‥‥‥そう。疲れたから、もう寝るわね」
「それがいいにゃ」
「ねぇ、あと1つだけ聞いていい?」
「何?」
「魔王に‥‥‥。名前を言っちゃいけないって言ってたわよね? 何故なの?」
「主の兄ちゃんは、魔族以外の種族を全て支配できる力を持ってるにゃ。本当の名前『真名』を、教えることは人間族にとって『死』を意味するものになるのにゃ」
「名前を教えたら、殺されてしまうの?」
「そうじゃないにゃ。常に心臓を鷲掴みされているみたいなイメージにゃ。魔族の魔力は強力だから、魔術を使われたら誰も太刀打ち出来ないくらいには強いにゃ~」
「そう‥‥‥。分からないけど、『よく分からない』って事が分かったわ。ありがとう。私、寝るわね。おやすみ」
「おやすみ。僕は、ソファーで寝るにゃ〜」
心も身体も疲弊しきっていた私は、ベッドの上にある布団に潜り込むと、10秒もしないうちに眠りについたのだった。
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