再び休暇

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再び休暇

「ヤッホー、リリア元気にしてる?」  翌週になって、再びスザンヌが訪ねてきた。カゴいっぱいのお菓子と、ワインをテーブルの上に置くと、彼女は私が寝ているベッドまで来て言った。 「リリア、休みの日だからって何時(いつ)までも寝てるの、良くないわよ」 「休みの日くらい、寝かせてよ」 「お父様から聞いたわ。ストラウド、出て行ったんだって? 次のお見合いの日が明日だって聞いたけど大丈夫なの?」 「お見合いって、誰の‥‥‥。まさか?!」  私はスザンヌの言葉に驚いて、掛け布団を押しのけると飛び起きた。 「え? 誰って‥‥‥。リリアの?」 「何でもう1回、お見合いしなくちゃならないのよ?! 聞いてないわよ」 「リリア、あなたスウェン・サクフォンとのお見合、もしかして断ってないんじゃないの?」 「あ‥‥‥」  やってしまった。この国では、お見合いをして断りの連絡が無ければ、次のお見合いを双方の都合の良い日に決めることになっていた。ストラウドが話を進めていたから、決めてから城を出て行ったのだろう‥‥‥。けれど、そんな話は聞いていなかった。 「何? もしかして、やっぱり断ってなかったの?」 「いや、知らなかったと言うか‥‥‥。それどころじゃなかったっていうか‥‥‥。言い訳なんだけど」 「どうすんのよ。相手の用意や予定だってあるんだし、今から断る事は出来ないんじゃ‥‥‥」 「明日、お見合いに行ったら謝ってみるわ。許してくれるか、分からないけれど」 「そう言えば、サクフォン伯爵と会ってみてどうだった? 小説と同じで、いいなとかは少しも思わなかったの?」 「思わないわよ。何ていうか、ひと言で言うと変な人よね」 「ひと言で表さなくていいわよ」 「私が、ストラウドを好きなままでいいから、結婚したい‥‥‥。そう言ってたわ」 「何それ?! 仮面夫婦ってこと?」 「‥‥‥たぶん」 「だったら結婚してもいいんじゃない? リリアが想いを貫きたいんなら、話を分かってくれて、側にいてくれる人が1番いいと思うんだけど」 「‥‥‥」 「いや、魔王の正妃になってから、恨みとか妬みとか、怖いなって思うことが多くて‥‥‥。私はステファン様のお陰で、未然に防ぐことが出来たから、どうってこと無かったんだけど、リリアは1人で太刀打ち出来そう? お父様には、リリアのこと守ってくれるようにお願いするつもりだけど、王宮内は一筋縄じゃいかない相手ばかりよ」  私はサクフォン伯爵の、人好きのする爽やかな微笑みを思い返し、あの人に酷いことをするのは罪悪感が芽生えてしまうだろな‥‥‥。などと考えていた。 「あーうん、分かってるわよ。サクフォン伯爵がちょうど良い相手だってのは‥‥‥。サクフォン伯爵は、私のことが「好きだ」って言ってたの。私と婚約して‥‥‥。相手に気を持たせるのも悪いじゃない?」 「私は相手が『それでいい』って、言ってるんだったら、それで良いと思うけどね」 「‥‥‥え?」 「リリア、よく考えてみて。国王がお見合いを断り続けるのは実質、不可能よ。夜這いされて既成事実を作られてしまう前に、サクフォン伯爵と仮面夫婦になりなさい」 「よっ、よばい?」 「無いでしょうけど、それと似たことは起こるんじゃないかしら。私も()ソンソムニア王国の公爵令嬢だしね‥‥‥。いろんな噂は聞くし、だいたいの想像はつくわ」 「うーん‥‥‥。どうするべきか、もう一度考えてみるわ」 「そうして。あっ、そうだ。これ、サクフォン伯爵に渡してくれる? 魔王領で作ったワイン。デザートワインだから甘いんだけど、魔王領産の商品を広めたいと考えているの。協力してもらえると助かるわ」  スザンヌは、マジックバッグからワインをもう1本取り出すと、テーブルの上に置いていた。 「いいけど‥‥‥。もう帰るの?」  スザンヌは手のひらを上に向けると目の前に手を(かざ)し、黒い渦を作り出していた。 「ええ‥‥‥。早く帰らないと、またステファン様が迎えに来ちゃうわ。またね、リリア。私は何も出来ないけど、リリアにとって良い結果になるように祈ってるわ」 「ありがと。スザンヌ」  目の前の黒い渦が大きくなると、スザンヌは飲み込まれるようにして、慌ただしく帰って行ったのだった。
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