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四阿と渡り廊下の間
私達が向かったのは、城の中庭のにあるベンチだった。四阿と渡り廊下の、ちょうど中間にあるベンチは、座ると中庭の草木がキラキラと光って見えた。
「何これ?」
「魔術では無いんですよ。何故かは分かりませんが、たぶん朝露が蒸発して‥‥‥。それが、渡り廊下の窓に反射してキラキラと光って見えるのだと思われます。私も城の門番に聞いた話なので、ただの受け売りなのですが‥‥‥」
「すごいわね!!」
「え?」
「何だか妖精が舞っているみたいに見えるわ‥‥‥。本当に自然現象なの?」
「ええ‥‥‥。分かりませんが、たぶん。調べさせましょうか?」
「いいえ‥‥‥。大丈夫よ」
私は子供みたいに、はしゃいでしまった事を恥ずかしく思いながら、サクフォン伯爵からサンドイッチを受け取っていた。
「良かったです。喜んでいただけるとは思っていなかったので‥‥‥」
「綺麗だから綺麗って言っただけよ」
私は何故か喜んでいるサクフォン伯爵に、どう言い返していいか分からずに、冷たい態度を取ってしまっていた。
「あの‥‥‥。もしかして、陛下は国王であることを辞めようとお考えですか?」
「んぐっ‥‥‥」
私は自分が考えていた事をピタリと言い当てられてしまい、ポテトサンドを喉に詰まらせてしまっていた。
「陛下、こちらを‥‥‥」
「ありがとう」
私は、サクフォン伯爵が淹れてくれた紅茶を受け取ると、飲み干した。
「陛下は、いてくださるだけでいいんです。もし嫌なことや、気に障ることがあれば言ってください‥‥‥。私が全て請け負いますから」
「分かってるわ。私は、この国の広告塔みたいな存在だって‥‥‥。聖なる力があるだけで、政治は何も出来ないもの」
「いえ、それは‥‥‥。私が相談しながら、陛下のお力になれるよう、努力致しましょう」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「やっぱり、悪いわ。サクフォン伯爵、私は貴方と結婚しても、閨を共にする気は無いの‥‥‥。それは、あんまりにも貴方に悪いから‥‥‥」
「ストラウド様を、思い続けるということですか?」
「‥‥‥」
「それでは私が、妾を娶ることに致しましょう‥‥‥。それで構いませんか?」
「いや、それは‥‥‥」
嫌だと思ってしまった。でも、好きだからじゃない。そんなの相手の女性に不誠実だし、よくないと思う‥‥‥。この人は、好きでもない人と本当に一緒になれるんだな。と思ってしまった。
貴族にはよくある話だと思ったし、よくないとは言えずに、上手く説明できずにいると、いつの間にか、サクフォン伯爵に手を取られてしまっていた。
「私は貴方を愛しています。だからこそ、貴方のためだったら、何だって出来ます。でも、急にいなくなるのだけは止めてくださいね。貴方の嫌がることは何もしませんから‥‥‥」
私は何も言えずに、ただ頷く事しか出来なかった。
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