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西塔にて
貴族館でのお見合いから1年後。私は重臣達から、せっつかれていた。「いつ結婚するのか」と‥‥‥。
こうなることは目に見えていた。だから早く何とかしなくてはいけないと思いつつも、目の前にある仕事をこなすことで、私はいつも精一杯だった。
『青い薔薇と乙女の秘宝』の小説の中に出てくる場所で、もともと監視塔として使われていた西塔がある。今日は、その5階バルコニーへ来ていた。
街の灯りを一望出来るその場所は、小説では聖女リリアが『聖なる力』をパワーアップさせるパワースポットで‥‥‥。月の光を浴びると聖なる力が強まる場所だった。
だが実際は、ここで聖なる力がパワーアップすることはなかった。何回か試してみたが、上手くいく事はなかった。
「よっ、久しぶり」
「ストラウド?!」
夢を見ているのかと思った。城を出てから1年以上経っている。あれから魔王城へ戻っていなかったとスザンヌから聞いていたが、一体、どこで何をしていたのか‥‥‥。
「思ったより、上手くいってんじゃん‥‥‥。やっぱり、俺がいなくても大丈夫だったな」
「そんなこと‥‥‥。ない」
私は泣きそうになりながら俯いていた。会えて嬉しい。生きててくれて嬉しい‥‥‥。このまま一緒に、何もかも捨てて城を飛び出してしまいたかった。
「聞いたぞ。スウェン王子と婚約したそうじゃないか‥‥‥。あ、今はサクフォン伯爵か」
「誰から聞いたのよ」
「えーと‥‥‥。スザンヌ?」
「じゃあ、聞いてるでしょ? 婚約は隠れ蓑だって‥‥‥。本当は好きじゃないって」
「いや、それは‥‥‥。分からないだろう? 人の心は移ろいやすいし‥‥‥。『いいな』ぐらいは思わなかったのか?」
「思わないわよ」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「なあ、リリア‥‥‥。城を出て魔王城へ行かないか? スザンヌが、お前のこと気にしててな。何たって、この国の国王を指名したのはスザンヌだったし‥‥‥。やっぱりリリアには荷が重かったんじゃないかって‥‥‥。責任、感じてるみたいだったぞ」
「ストラウドも城へ戻るの?」
「俺は‥‥‥。世界各国を回って、見聞を広めるさ。もともと、そんな感じだったし‥‥‥。いろんな国の情勢を知っていた方が、魔王領のためにもなるだろ?」
私の国に、知っている人はもう誰もいなかった。だから、私にとってソンソムニア王国は第2の故郷みたいなものである。人生の大半をソンソムニア王国で過ごしていた。
ストラウドの「魔王城に来い」というのは、国を見捨て魔王城の片隅に部屋を与えてもらって、鳥かごの中で一生、生きていく様な生活だろうか‥‥‥。ストラウドがいつ戻ってくるかも分からず、しかも自分を好きでもない人を待ち続ける‥‥‥。そんなのは、耐えられないし『自分らしくない』と思ってしまった。
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